介護保険「始めなければ始まらない」
●保険は給付と負担のバランスだ!
自治体主体で住民の意見反映

 2000年4月の介護保険導入に対して、一時は「先送り論」「凍結論」まで飛び出し消極的な意見が目立った。しかし、「なぜいま介護保険が必要なのか」「なぜ地方自治体主体が原則なのか」という基本的な部分に目を向ければ答えは自ずと出てくるはずだ。先ごろ永田町の星陵会館で開かれたシンポジウム「介護保険・始めなければ始まらない」を振り返りながら掘り下げてみたい。

 住民サイドの福祉行政を進める市町村長の集まりである「福祉自治体ユニット」と「介護の社会化を進める1万人市民委員会」が主催したこのシンポジウムでは、小泉純一郎(前・厚生大臣)氏が「現在指摘されている介護保険の問題点は、すでに法案審議の中に出てきたものばかりだ。社会保障制度というものは給付と負担のバランスに尽きる。誰かがどこかで恩恵を受ければ、必ず誰かがどこかで負担しているということだ」と冒頭で挨拶し、2000年4月のスタートに向けて決意を新たにした。小泉氏は介護保険法案を提出、法案の成立時には厚相を務めている。
介護保険法案成立時の厚相だった小泉純一郎氏



 誰がみても、「サービスは受けたいが負担はしたくない」という論理は通らない。すべてを税で賄おうとすれば直接、間接に関わらず納税額は上がる。そこで、サービスを受ける可能性の高い年代を中心に保険に加入して貰って、その保険料でサービスの半分の費用にあてる。

盛況だったシンポジウム会場

愛情が憎しみに
変わる長期介護

 コメンテータとして出席した池田省三(龍谷大学教授・一万人市民委員会)氏は「昔は、倒れてから一ヶ月とか半年でほとんどの人が亡くなった。家族介護も三週間だったら献身的に出来るし、三ヶ月だけだったら愛情を持ってお世話することも出来る。しかし、それが何年も続いたら、愛情は憎しみとか虐待に変わってしまうこともある。今、寝たきり高齢者の約半分は3年以上の寝たきり状態にあるという事実に目を向けなければならない」と、介護を社会全体で支え合うシステムづくりの重要性を強調した。
 また、税に対する負担感は、そのお金が何に使われるかが明確になっていない場合に起きてくる。つまり徹底した情報公開が必要であるとした。その意味では、税方式でなく保険料の方が使途がはっきりしてくるわけだ。
 さらに池田氏によれば、日本の介護保険は、認定はドイツ型、サービスの提供はイギリス型、財源システムはアメリカ型、そして市町村を保険者にした点は北欧型といえる。つまり今いわれている問題をうまくクリアしながら実施できるのは国ではなく、「住民主導で機能する自治体でしかない」と市区町村主体の原則に触れた。
 また、今後の問題点として、@どうやってサービスの質を確保していくか。A介護が行き過ぎた商売の対象にならないようにするにはどうしたらよいか。B市民参加による良質な介護を提供するにはどうしたらよいか、などが挙げられ各自治体がその特色を生かして対処していくことが確認された。

介護保険制度とは

 40歳以上の全国民から徴収する保険料で、ホームヘルパー派遣や特別養護老人ホーム入所などの介護サービスを提供する制度のこと。費用は一割の利者負担を除き、半分を税金で、残りを保険料で賄う。
 65歳以上から徴収する保険料は実施主体の市区町村によって異なり、厚生省は、高齢者の保険料が全国平均一人あたり月額3千円弱、40〜64歳は健康保険加入者で所得の1%程度(これを労使折半)になると試算している。サービスにを受けるには要介護認定を受けて、介護が必要と認定されなければならない。