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「オバマ政権の墓場」といわれる出口の見えない泥沼の戦場と化しているアフガニスタン。オバマ大統領は3万人の軍隊を
増派し、NATOもオバマ政権の要請に応じ7000人を増派する。年末から新春にかけて、こうした暗い展望が世界に重くのしかかって
いる。
前回も触れたが、アフガン駐留を体験した兵士たちが苦しんでいるのは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という病いである。この
心の病いは不気味なほど深く、切ない。
これはアメリカの兵士だけでなく、増派が決定(12月4日)した英、仏、伊などNATO軍の兵士たちにとっても例外ではない。
英国防省はアフガンの英兵死者数は計237人(11月7日現在)になった、と発表。ブラウン首相は「兵士の死はすべてが悲劇だ」と
語った。
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日本も派兵こそしていないが、アフガニスタンに支援の手を差し伸べている。主要国の支援表明額(2013年までの総額)はアメリカの321億ドルに
ついで、日本は70億ドル、2位である。
だが、ドイツのアフガン駐留軍幹部のこんな壮絶な言葉(朝日新聞12月6日付「風」欄)に接すると、「70億ドル、2位」なんか吹っ飛んでしまう。
駐留幹部はこう言いきった。「日本も本気で支援するなら、金を出すだけでなく、ここに来い。最前線でなくてもいい。この大地を踏め」。
この話を報じた記者が、その“大地”を踏んでドイツ駐留軍を取材したのは9月のことであったが、そのレポート(前掲紙12月7日付「グローブ」
第29号)によると、記者は首都カブールへ日本からは直行便はないので、トランジットしながら計23時間をかけてカブール空港にはいった。空港から
街への道はトヨタ4駆を防弾仕様にした国連車を使う。レストランでは銃で武装した警備員が見張りをしている。
或る日、宿泊の国連施設に大使館からテロ情報がはいってきた。3日後に襲撃を受け、中庭にロケット弾を打ち込まれた。誘拐防止のため尾行を警戒し、
時に回り道して取材にはいる。この凄まじいまでの緊迫感―。
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だが、これに圧倒されて疲れ果てるといった甘っちょろいことを口走ってはおれない。なぜなら、記者は、いうならば“市民生活”の“平和”な大地を踏んで
いるのであって“最前線”に立っているわけではないのだ。“最前線”はといえば、敵がいつ襲ってくるかわからない中で、殺される前に、殺さねばならない
異様なまでの緊迫に包まれたトラウマ(心的外傷)の地獄絵そのものだ。「PTSD」にかからないほうが、不思議なくらいだ。
アフガン派兵の長期化とともにPTSDなどの心の傷に苦しむ兵士が増えているという。わずかな物音にも緊張が走って思わず銃を構え、耳鳴りで眠れない
日々が続く。
ドイツ駐留軍当局によれば、06年に55人だったPTSD患者は08年には約4倍に増えたという。人の心をかきむしるこんな“最前線”はこの世から
一刻も早くなくしたい。
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だが、なんたることか!「2011年夏には撤退開始」という新戦略をめぐって、国家安全保障担当の米大統領補佐官は「(将来を予見できる)完全な
水晶玉はここにはない」と事もなげに言明する。
それにしても、アフガン紛争が産み落としたといってもいい「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」なる魔物のような病いは、思うだけでも身の毛がよだつ。
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