2009年8月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★「やせ」と「肥満」の間で心身の健康が蝕まれてゆく
   
 日本人全体の平均エネルギー摂取量は減少し続けており、特に若い女性や子どもで低下しているという調査(桜美林大学大学院・ 柴田博教授)が発表された。
 年代ごとの栄養摂取量の分析によると、20〜30歳代の女性のエネルギー摂取量が著しく低いというのだ。その背景には朝食を食べない人が年々増え、20歳代 女性の4人に1人が朝食をとらないというから、標準体重より20%も軽い「やせ」が増加しているのは当然であろう。
 前回、大学生の昼食事情に過保護なまでに大学当局が心配することに筆者はビックリし、腹が立つ前に笑ってしまう情況をご紹介したが、残念ながら今回も 五十歩百歩なのである。

 若い女性は「肥満」を嫌うあまり、間違ったダイエットで「やせ」へ突き進んでゆく様子がうかがえる。これは由々しい問題だ。「やせ」すぎの人は、今から でも遅くないから、しっかり食べて体重を増やそう。
 厚労省研究班(代表者=辻一郎・東北大学教授)は若い時に「やせ」すぎた女性は骨量が少ない。更年期以降、骨量を維持する女性ホルモンが減ると骨がも ろくなり、「骨折で寝たきり」という、とんでもないことが増えるかもしれない。「やせ」すぎの人はしっかり食べて体重を増やしたほうがいい、と心配する。


 一方、男性はといえば、女性とは反対に「肥満」増加の傾向にある。そんな中で、「メタボリック(内臓脂肪)症候群」にとりつかれてしまうのは若い女性の 「やせ」指向と同様、男性に潜む危険要素なのである。
 タイコ腹は「貫禄」ではなく、自分をコントロール出来ない果ての「醜態」であることを自覚するのはいいが、これが極端に走ると、数字が魔物に見えてくる。 脱メタボに悩む人たちは、数字にとらわれるのではなく、基本をしっかり理解したうえで、ダイエットしてほしいものだ。
 たとえば、健康器具の効果は? バナナ(りんご)ダイエットの効果は? 間食のおやつがおむすびなどに比べカロリーは高いと思うがどうか?……といった 話題の向こうに、「運動」が究極のダイエットであることがみえてくる筈である。
 こうした生活習慣を身につけるには本人の意識改革が不可欠だ。「以前の土日はトドの様にごろ寝だった」夫の変化を応援する家族たち…。そんな風景に接する と、うれしくなってくる。
 ブラジルでは「肥満は病気、手術しなければ死んでしまう人もいる。大食いで怠け者だから太るとおもわれがちだが、生まれつきだったり、病気だったりする 場合もある」といった肥満者の権利保護の潮流があるという。早晩、日本でもこうした考えが迎え入れられるのであろうか。


 いずれにせよ、「やせ」と「肥満」の根底に介在するもっとも危険な要素は朝食抜きでダイエットをしているつもりの状態であることは確かだ。柴田博教授の 決定的な指摘はこうである。「摂取カロリーは終戦直後を下回り、世界的にみると開発途上国並みである」。
 終戦直後、食べ物のない時代に育ち盛りの中学生だった筆者からいわせてもらえれば、この飽食の時代に摂取カロリーが終戦直後を下回るとういのは、どう 考えても若い人たちの「食」に対する誤解とわがまま以外にないと断言できそうだが、いかがであろうか。

 
 
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