2009年7月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★心身の健康は「食」が基本であることを自覚しよう
   
 大学生が「朝ご飯」を食べるようになった、というのが特筆されるご時世である。そして食べるようになったのは実は各大学の 学生食堂が朝食メニュ―を充実させるなど、足を向けさせるいろんな工夫をしているからだ、ということのようで(朝日新聞、5月30日 「もっと知りたい!」欄)、まるで学生の朝食に大学が幼い子どもを世話するような配慮をしている情況をつきつけられる思いにもなる。

 奈良女子大は食事への関心が低い学生をみかねて、単位も取れる講座「朝食ゼミ=朝食たべてダイエット」(三木健寿教授)を開き、成功している。
 京都橘女子大では「百円朝食」が人気を集めている。「お節介といわれても」と東川絹子・学食店長は言う。「それをしなければ生活習慣が身につかない」。 なにしろ学生の3分の1が朝食抜き。お菓子や野菜ジュースを「朝ごはん」と思っている学生も多いからだという。
 福島大は熊本大や北大もそうだが「前払い式カード」の導入で、学生の足を学食に向かわせ、朝食の習慣化に成功しているそうだ。朝の8時過ぎに850席が 満席になるほどで、学生は便利な学食に大喜びなそうである。―だが待てよ、と福島大学食の柴田洋店長は自問自答。その結果、今後は自炊の講習にも力をいれて いきたいという。ご苦労な話である。

 食事にどうしてこんなにも過保護にならざるをえないのか。各大学の学食は学生の歓声をよそに悩んでいるのは、河合知子さん(食生活研究家)が指摘している ように、おにぎりは買うものだと思っているし、家でもペットボトルのお茶を飲んで、急須でいれることをしない。棚橋俊夫氏(精進料理人)も「ペットボトルを ラッパ飲みする姿を見ると、寂しくなります。お茶はいれるものではなく、買うものになってしまったのでしょうか」(朝日新聞「いただ気ます」欄)と慨嘆する。
 学生たちは、いつでも何でもお金で手に入る都会生活にならされ、「買うこと」が「食生活」と思い勝ちな、何とも度し難いご時世なのである。体重を気にする 中学生女子が摂食障害で入院するケースがふえているそうだが、これまたご時世というもので、中学女子22パーセント、高校女子42パーセントがダイエットを 体験していると いう。そしてなかには「先生、私、下剤を飲んできちゃった」と平気で言いだす生徒がでてくる始末なのだ。

 こんな危機感のなかで、私はある親子四人家族の食生活の一端が投書で紹介されているのを読んだ。爽やかな風に吹かれる思いだった。
 …病院勤めの妻に月に1〜2度の当直勤務が入る事になった。心配なのはその日の家族の夕食だ。なんとその時、小学4年の長女が「夕食は私が作る」と名乗り でた。いよいよその日がやってきた。みごとなチャーハンが完成した。次ぎの当直の時は1年生の次女が「私もやりたい」と言い出した。長女は半年ほど前から 妻から簡単な料理を教わり、自分でレシピ帳を作ってきたという。まさに「食」こそは家族の営みそのものであり、生活する者の智慧をみがいてくれる絶好の 教材であることを教えてくれるものであった。
 先の棚橋氏はこうも言う。「新幹線での食事時、お弁当を小さなテーブルにのせ、狭い座席で行儀よく食べている姿をみていると、何だかちょっと寂しい。 個食に慣れっこになっているせいで、何とも思わないのでしょう。おいしく頂くというより、仕方なく腹をみたしているように見えます」。

 「個食」という言葉が妙に胸に突き刺さってくる。

 
 
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