2009年6月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★カン違いという名の陥穽に墜落してはならない
   
 5月の連休直前に、日体大の陸上部合宿所(横浜市青葉区)の部屋からコピーされたニセ札が見つかった問題で、20歳の学生が 書類送検 された。学生は「友人を驚かせたかった」と供述している。この幼児性には呆れてしまうが、なんとこの学生はさきに大麻で書類 送検された学生 (3月5日付けで退学処分)と同じ合宿所の同じ部屋だったというのである。

 かつて大学生の大麻汚染がイモづる式に摘発された時(昨年末)の、ある評論家のコメントを今更のように思い起こす(本欄・平成20年12月掲載)。 「今の大学生は中学生や高校生なみに扱って教育しないと、そご(齟齬=食い違い)をきたす」と。
 全くその通りだ。彼らは一様に「カン違いをして誤った陥穽(おとし穴)に墜落してゆく愚かさ」を演じ、それこそ一般社会人との間に齟齬をきたしてしまう のである。
 合宿所で大麻が摘発された時、関東学生陸上競技連盟は日体大に対して来年1月の箱根駅伝シード権剥奪など厳しい処分で臨んだ。だが大学当局は大麻事件を 起こした男子部員と同じ跳躍系種目の部員46人の無期限活動停止で事件をおさめようとした。大学当局もカン違いしていたのである。
 大学は「なぜ陸上部全体が処分対象にされたのか理解できない」と言う。伝統にあぐらをかいた、こうした姿勢がカン違いであることに気付こうとはしない のである。そこに今度はニセ札つくりというテイタラク。この無法地帯と化した合宿所を大学はどう処理しようとしているのか。まだ見えてこない。

 折りしも新型インフルで国内初の感染者を確認し、厚労相の緊急記者会見が行われた5月9日の新聞には「不正大麻・けし撲滅運動」月間の政府広告が載った。 そして、その日のスポーツ面に大きく報道されたのが、大リーグを代表するホームランバッターの一人であるドジャースのラミレス外野手が薬物規定違反で処分を 受けたというニュースだった。
 実はこの問題の根は深く、米球界に大きなダメージをあたえているようだ。というのもラミレス選手が使った薬物は禁止されているステロイド使用の痕跡を消す ホルモンの一種だった。つまり薬物使用を隠すための「裏技」であるという疑念があるというのだ。
 日体大の大麻事件では伝統にアグラをかいたカン違いがあったが、ラミレス選手の場合には人気に乗った横柄なカン違いがみえてくる。そうでなくてさえ、 アスリートの薬物汚染はファンの賞賛と信頼という財産を失う以外のなにものでもないのだ。

 大学生の薬物乱用をめぐって「ゲートウエー・ドラッグ(入門薬物)」と呼ばれる薬物は酒とたばこである、という指摘がある(朝日新聞・5月1日・「私の 視点」)。
 未成年で大学に入学して最初に受ける“洗礼”は歓迎コンパである。その酒席で毎年約4割の大学生が飲酒を強要されたことが「ある」とこたえているという。 彼らはここでカン違いをしてしまい酒席の延長線上で仲間や先輩からすすめられて、大麻を吸引してしまうのだ。酒というゲートウエー(入り口)の奥にある薬物に 軽い気持ちで手を伸ばし、さらにこれが大目に見られることから軽い気持ちでカン違いという“悪行”を重ね、大麻とニセ金つくりを同じ部屋でやってしまうと いうことにもなる。
 合宿所を別天地とカン違いして遊びほうけている様子がうかがえる。そして彼らは厳しい処分をつきつけられてはじめて「え!?」となる。その時はもう遅い のだ。彼らはアスリート育成の土壌を自ら崩壊してしまうのである。

 
 
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