2009年5月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★使いようで毒にも薬にもなるクスリの正体を知ろう!
   
 現代社会の病理の特徴は、身勝手からくる依存症である。さしずめ麻薬はその典型だ。麻薬をめぐる話題はつきることがない。 学生が 大麻所持法違反で次から次に摘発される事件は日体大の陸上部を最後にようやくおさまった。日体大は来年1月の箱根駅伝シード校を 剥奪され、 10月と11月の「全日本大学駅伝」の出場を不可とする処分を受けたのである。――と、ここにきて、またまた芸能人の子弟が 大麻所持の現行犯で 逮捕された(4月4日、15日釈放)。

 逮捕された芸能一家の長男・31歳は午前3時ごろ、杉並区内の路上に停めていた車の中に乾燥大麻を所持していたのである。「“理想の夫婦”は“バカ親” だった」(週刊文春・4月16日号)、といった容赦のない批判を週刊誌は掲載していた。事実、父親の涙ながらの記者会見は“親バカ”そのものであった。 親離れ・子離れ出来ない状態の中で甘やかされ、遊びほうけてきた息子はクスリに依存しなければ意気も気力も喪失してしまう生活に落ち込んでいった。この 芸能一家にとって大麻は「麻薬」という名の「魔薬」そのものであった。そのことに家族は気付かなかった。
 前にも芸能一家のグータラ息子が大麻事件を起こして話題になっていたが、これらの事件から見えてくるものは、「クスリ」は“使いよう”であるという警告だ。

 「麻薬」を「魔薬」にするか、それとも天が授けてくれた「良薬」にするかは何よりも麻薬の“使いよう”にかかっている。
 アヘンの原料となる植物のケシは古代文明の誕生とともに薬草として栽培されてきた。そしてアヘンから取れるモルヒネは医療用麻薬としてがん患者の痛みを とる疼痛治療に世界中で利用されており、その鎮痛作用は極めて強力だ。モルヒネの名の由来は夢のように痛みを取り除いてくれるところからギリシャ神話の 「夢の神」の名にちなんだものという。
 がん患者の8割には耐え難い痛みが現れると言われている。そうした患者から痛みをとることは、患者が生きる意欲を持ち続けるために不可欠なのだ。 人の命を護るのである。痛みの強さと性質に応じた適切な薬を選び、正しく投与すればほとんどの患者の痛みは取り除ける、と専門家は指摘する。つまり “使いよう”なのである。このことを自覚しなければならないであろう。

 ところで、同じような効果をもちながら、法律で規制されていない薬物の乱用がいま増えているという。これが「違法ドラッグ」だ。インターネットを中心に 出回り、多幸感、快感を高めるなどとうたいながら軟弱な青少年を狙って跳梁する。
 こうしたものの便利さだけに目を奪われた他力本願にはそれなりの代償がつきまとうのは当然であろう。その流れの中から麻薬依存者が出てきたり、さらに、 そうした惨状を目の当たりに見ているだけに鎮痛薬として使う事に腰を引いてしまう医療従事者も出てくる。
 この極端な両者に共通しているのは、薬物は“使いよう”への強い意志が欠落していることにあるようだ。心したい。

 
 
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