2008年11月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★太々(ふてぶて)しくも名を捨てた東大農場のていたらく
   
 こうした事件は決して風化させてはならない。それを肝に銘じて、あえて古い事件を今更のようにとり上げる。10月1日未明 だった。 大阪の個室ビデオ店で男性客15人死亡10人負傷という大惨事が起こった。この事件は現代社会の病巣を一挙に曝け出した。 そして「未必の故意」 が話題になった。この言葉の意味するところは、結果的に犯罪になってしまうかも知れないが、かまうもんかと犯行に 及んでしまう状態をいう。 この事件の犯人がまさにそうだ。

 今回のテーマはこの人の命を何とも思わぬこんな不埒な者と同じような犯行を東大農場(東京大学大学院農学生命科学研究科附属農場)で、何のためらい もなく、しかも堂々と行われていたということだ。

 都下西東京市に広がる東大農場が農薬取締法で禁止されている水銀系農薬を使って米を栽培し、一般に販売していたのだ。農場の職員はプロだ。その職員が 「イネが病気だったので(殺菌効果が高い)水銀系農薬で健全にしたかった」と言っている。つまり、イネの病気が広まったので健全にしようとし、そのためには 人間に害があってもこの際イネを優先しよう。このとんでもない“未必の故意”には驚き呆れるばかりである。

 不埒な職員を見逃していたばかりか、農薬の管理状況を把握している職員が皆無だったという大学の管理能力の欠如。専門家(岐阜大学・利部伸三教授)は 嘆く。「すでに使用が禁止されている農薬を研究用ではなく実習用に使い、収穫したコメを販売するとは信じられない話」。これだけではない。東大がおこなった 説明会で、実習用の水田付近で、水銀系農薬の廃液を捨てていたことが明らかにされた。びっくりした地域住民から土壌や水質の調査を厳しく要望される始末 だった。法律違反を百も承知のうえで「名」を捨て「実」をとるために「未必の故意」に踏み込んでしまう。彼らの言い分は特権意識の上に太々しくあぐらを かいている。

 東大コメ栽培問題はこれで終わらなかった。1か月後、今度は東京・本郷の弥生キャンパスの水田でも水銀剤を使用していたことが明るみに出た。ここでも 「他の農薬が効かなかったため」とぬけぬけと説明している。

 汚染米、メラミン混入、冷凍ギョーザ中毒、食品偽装…食の安全がいま激しく揺らぎ、「地産地消」など食べ物を安心して口にできる仕組みの構築が各地で 懸命に行われている。そんな中で、都下に東京ドーム5個分もの広さがある東大農場は宝の持ち腐れに見えて仕方がない。小売業のイトーヨーカ堂が農業生産 法人を設立し「セブングリーンファーム富里」をつくり、阪急阪神百貨店は「阪急泉南グリーンファーム」を設立し、共に食の安全と価格の適正化を模索して いる。東大農場はそうした民間に開放してやりたいと思う。

 ところで、「灯台下(もと)暗し」という諺があるが、灯台の下はそうであっても、上の方では光を放ち、船舶の安全を守るための航路標識として活躍して いる。だが、「東大」のほうは上も下も真っ暗なのだ。だから人の命をさておいて「生命科学研究」といった看板を麗々しく掲げることが出来るのであろうか。 笑止千万である。

 
 
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