2008年10月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★「医療用麻薬」は天から授かった「良薬」である
   
 9月の「がん征圧月間」が終わって10月。10月20日は「10(トー)2(ツー)0(ゼロ)」で「疼痛ゼロの日」なそう である。 「がんはもう痛くない」「痛みのない人生を」(当日の“テーマ”)私たちはぜひ送りたいものである。
 そのためには医療用麻薬への理解が前提となろう。力士の薬物使用やオリンピックで摘発されるドーピングが「薬物汚染」であるのに対し、 医療用麻薬は天から 授かった「良薬」なのだ。このことを肝に銘じたい。

 ところが、この「良薬」に対して多くの医師が腰を引き、後ろ向きなのには驚くほかない。WHOは指針でこう宣言しているのを、彼らはどう 受け止めているの だろうか。
 「がん患者は痛みに対してモルヒネを含めた適切な鎮痛剤で治療される権利がある」。

 この指針を現場での体験をまじえて具体的に世の中にアピールするため、新聞に投書した高知県宿毛市の看護師さんの文章(朝日新聞・ 「声」欄・平成 18年9月14日)を紹介したい。彼女が投書するきっかけとなったのは平成18年7月の日本ペインクリニック学会が発表した 「全国の医師1000人調査」 の記事(同紙・同月20日)であった。
 その調査によると、日常がん患者に接する機会のある病院に勤める医師なのに、なんと半数近くが痛みを抑える薬についての基本的知識が不足し、 薬の適正使用 に不可欠な用語さえ知らない医師が多かった。そして医療用麻薬についても、「中毒になる」と7%の医師が誤った回答をしている 始末。
 投書者は看護師として、医師の知識のなさに驚き呆れる。「3人に1人、年間30万人以上ががんで亡くなる時代。多くの医師が正しい知識を 持っていないのだ」 と指摘する。
 そして、数年前に、父親を看取った時の体験を報告する。これが痛烈だ。彼女は主治医に父親へモルヒネの使用を頼んだが「本人が痛いと言わな ければ投与 できない」と言われたという。その時、当の父親は脳障害で言葉を発することができなかったのである。彼女は悔しさと無力感で涙が 止まらなかった。
 この文章には「医療は誰のために 鎮痛薬の知識持たない医師」の見出しがついていた。

 これは勝手気ままなモルヒネ発言の例。野党の幹部がこんな事を言っていた。「与党の総合経済対策は選挙目当てのばらまきだ」と、ここまでは いいのだが、 これは「がん患者にモルヒネを打つような話で、一時的にはいい気持ちになるが長期的に見ると体をむしばむ」。
 これに激しく反応し、怒りの投書(朝日新聞・平成20年9月5日「声」欄)をしたのが、あの医師・山崎章郎氏だった。この一文には「誤解に 基づくモルヒネ 発言」という見出しがついていた。
 山崎氏だけでなく、がんの痛み緩和治療が極端に遅れているのを憂慮する人たちが、怒るのは当然だ。山崎氏は「こうした誤解が長らく医療用 麻薬モルヒネの 使用をためらわせ、多くのがん患者を激痛の中に放置してきたのだ」と怒りをこめて指摘し、「公党の責任ある立場にある方の発言 としてはお粗末すぎる。猛省を 促すものだ」と断じる。無念さのにじむ痛烈な一文だ。

 私たちは「疼痛0」の日やWHO指針と共に、看護師や医師の立場から正確な知識を背景にした確固たる視点と正義感に充ちたこうした訴えを忘れて はならない。

 
 
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