2008年7月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★アキバに不気味さ刻んだ身勝手な人たち!
   
 前回、閉塞した社会の病理の一つにペット依存症があると提示したが、これを嘲笑うような惨劇が6月8日の昼、起こった。 くしくも7年前のこの日、大阪教育大附属池田小学校での児童無差別殺害事件が起こった。

 今回の無差別殺傷事件はアニメ・ゲーム文化の中心地として世界に知られた秋葉原電気街の十字路で起こった。折しも歩行者天国の街は若者であふれていた。 そんな賑やかで明るい人の波を殺意が鋭く切り裂いていった。
 救急チーム160人が動員された。東京都は「東京DMATC(災害派遣医療チーム)」の派遣を要請し、東京消防庁は「スーパーアンビュランス(トレーラー型 特殊救急車)」を急行させた。8つのベッドがあり救護所にもなる装備をもっているこの車をみると、地下鉄サリン事件を思いだしてしまう。
 この騒然とした若者の超人気スポットをワシントンポスト紙はこう速報した。「日曜日の午後、秋葉原はまるで戦場のようだった。道路には血の海が広がり、 靴が散乱していた」。

 前回は官僚の身勝手さや他者への度し難い鈍感さを憤りをまじえて書いたが、今回はアキバの若者文化の担い手の中にも身勝手で度し難い鈍感さがあることを 書くことになってしまった。
 犯人の身勝手さはケイタイ・サイトに3000項目にもわたって書き込まれ、日本社会に広がる格差が露呈されていた。だからといって犯人を被害者にしておいて はならない。彼は孤立と怒りをケイタイに身勝手に独白し、そうした己の存在感を凶行で表現してしまったのである。さらに悪いことにはそうした犯人が決して 特殊な人間ではないことが不気味さをいやがうえにもつのらせるのだ。

 不気味といえば、この青年が「やりたいこと…殺人、夢…ワイドショー独占」を書き込み、それを果たした狂気に「すごいことをやったヤツ」と共感を寄せる 雰囲気がアキバ・ホコ天を行く若い人たちの間にあったというのだ。そうした恐ろしい光景を、事故現場に居合わせてまのたたりにみてしまった2人の医師がいた。
 1人は福岡の病院医師・小山敬さん(40)。学会出席のため上京、音響部品を買うためにアキバにきていた。もう1人は徳島の産婦人科医・西条良香さん (39)。東京の友人と楽器店めぐりをしていた。
 2人はいきなり“戦場”のような異様な風景に遭遇し「医師であっても足がすくみ」「一瞬思考が止まった」状況の中で医師の使命感にもえ、懸命に心臓 マッサージや止血に奮闘した。その時2人はトラックにはねられて倒れている人たちを介抱している最中に背後から背中やわき腹を刺されて重傷を負った人たち がいたことも知ったであろう。「あの情況では助けをよぶにも大変な勇気が必要だ」と専門家(四川大地震派遣の都立広尾病院救急診療科・中島医長)も指摘 する中で敢然と救急救命に参加してくれた人たちに感動した。それだけに、安全を確認しながらの救急が出来なかった人たちに2人の医師は涙する。  そしてそんな中で、2人の医師は全く違った光景をもみていたのだ。血を流す被害者をケイタイで撮りまくり、それが終わると今度はケイタイで惨劇を前に そのすごさをテーマにして“世間話”を始め、笑顔さえ浮かべている。そんな「身勝手さにはこわくもなり、腹もたった…」という恐ろしい情景。私たちは これを決して忘れてはならない。

 
 
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