2008年6月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★人間的な息使いを感じさせぬ不気味さ!
   
 オオハクチョウから猛毒性の鳥インフルエンザウイルスが秋田や青森や北海道で相次ぎ検出された。野鳥監視体制が強化される のと平行して、新型インフルエンザの発生前後に「大流行前ワクチン」が優先接種される職種の人たちが確認された。
 警察官、自衛官、医師、看護師ら計1000万人。これらの人たちの名称は厚労省専門家会議や政府案でつかわれたものなそうだが、それにしても 「社会機能維持者」とは、付けもつけたりである。彼ら以外の国民は社会機能に“役立たず”というわけである。その命名の非人間的な差別感覚には愕然と せざるをえない。

 先に「後期高齢者医療」でつまずいたはずの厚労省がまたまた性懲りもなく“業界用語” を右から左に使ってたたかれているのだ。その極めて高慢尊大な姿勢から透けて見えてくるのはお役人の無表情な顔であり人間的な息使いがまったく感じ られない素振りである。不気味だ。
 当のお役人たちは、こうした命名がなぜ物議を醸すのか理解しようとしない。「後期高齢者医療」の“作品”が新聞の投稿歌壇俳壇にどっと増えたのは (朝日新聞所見)、言葉に敏感な人たちの反応がいかに鋭いものがあるのかの証しである。それだけに入選作には厳しい反発と深い寂寥感が刻まれている。 それを感得できないということだ。

 こうした人間的な息使いのない人たちを国家権力の周辺に配置しておくのは恐怖政治に結びつくばかりで、とどのつまりは、あのミャンマー軍事政権の ようなものだ。モノは欲しいが、ヒトはいらぬ、入ってくるモノは軍隊が先取りしてしまうといった民意無視が増殖してゆくばかりである。コレラ、マラリア、 デング熱の発生も確認されている。そんな5月23日、かたくなに拒んでいた援助要員の受け入れが、国連事務総長との会談で“合意”に至った。この会談で 軍政トップは「終始無表情で話しを聞いていた」と報じられた。この“無表情”が不気味だ。これを対岸の火とみていてはならない。「後期高齢者医療」と 「社会機能維持者」という火が足元で炎を噴き上げているのだ。

 この閉塞した社会の病理の一つとしてペット依存症が登場してくる。近刊書の広告の中に精神科医の「イヌネコにしか心を開けない人たち」という本を みつけた。そしてこの本のタイトルに対応するかのように、「ポチもタマも家族です」という見出しのニュースにお目にかかってしまった。ある動物用医薬品 メーカーは社員にペット扶養手当として一律千円支給、さらに飼育年数に応じて表彰する制度を導入するという。またあるペットフードメーカーはすでにイヌや ネコを新たに飼い始めたときに「家族を迎え入れた」祝い金として一万円、死んだ時は忌引き休み一日が取得できる制度を導入しているそうだ。
 ひと様の会社のことをとやかく言うつもりはないが、私は思わず元禄時代の「犬公方(いぬくぼう)」を思い起こしてしまう。「犬公方」とは犬の愛護に 血迷った五代将軍・綱吉の異名であり、あの悪名高い「生類(しょうるい)憐れみの令」を発布(1687年)した将軍である。動物愛護に違反した者は死刑や 島流しの極刑である。
 これは筆者の近隣に住む高齢夫妻の話だが、老母を介護することが出来なくなって、施設にお願いしたが、それと前後して、長年飼っている足腰の弱った 老犬を犬小屋から玄関に移し、スポイドで流動食を与え、「犬にも床ずれがあるんですよ」とその手当てにかかりきりなのである。このご夫婦も、もうすぐ 「後期高齢者」の仲間入りだ。暗澹としてくる。

 ――厚労省前で座り込みデモをする老人のニュース写真。手に持つプラカードには「『長生き』って、だめですか?」とあった。なぜ老人にこんなプラカード を書かせるのだ!


 
 
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