2008年5月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
このコラムに関するご意見、ご感想をお寄せください。
 
 
 
 ★「世界語」で通じ合える社会の実現を!
   
 聖火が厳戒の中、シスコからブエノスアイレスに着いた日(4月10日)、オリンピック発祥の国・ギリシャで騒動が起こって いた。この国の“国技”である重量挙げの代表選手11人にドーピング違反が明るみにでたのである。
 原因は選手たちに栄養補助食品を提供していた中国の工場でミスがあったと報じられた。毒ギョーザ事件を経験した私たちは「またか!」いうべきか、 「やっぱり!」と言うべきか。
 オリンピックをひかえ、中国の国家食品薬品監督管理局もあわてた。工場側はギリシャ側に書面で謝罪したが、「複数の有毒な発がん性物資が偶然加わった」 といった説明に終始し、「まだ調査は初歩段階」と歯切れが悪いという。

 これに似たような事件で思い出されるのは、アメリカで血液凝固剤「ヘパリン」の中国産原料に不純物が混入、その副作用で62人が死亡した事故である。 その不純物混入をめぐって、ドーピング事件の5日後の4月15日に米食品医薬局長は米上院歳出委員会で「経済的な理由による意図的なものである」と断定した。 だが中国は、なぜか「ヘパリン」をめぐってはノーコメントを決め込んでいる。こんなことが、背景にあったのであろうか、米CNNテレビでコメンテーターが 中国人を「ならず者で凶徒」、中国製品を「がらくた」と発言した。CNNは謝罪したが、中国は謝罪を認めず抗議をくりかえす。その中国はダライ・ラマを 「祖国の分裂と民族の団結を破壊しようとする政治的ごろつき」と言い放つ。

 ここで私は柔軟な論調で注目される中国人ジャーナリスト、莫邦富(モーバンフ)さんのコラム「mo @ china」(朝日新聞・4月19日付け)の一文を引用する。
 中国政府は「世界の人々の耳に届く『世界語』が話せない。政府スポークスマンが使うボキャブラリーは文化大革命時代からそれほど進化していない」。
この「世界語」に立脚していえば、「ならず者」(CNN)も「ごろつき」(中国政府)も五十歩百歩である。

 もう一つ。中国で仏製品不買運動の影響があったからとは考えたくないが、そんな動きの中で、水野・ミズノ会長(JOC副会長)は「中国製食品問題は小さい こと」といった発言をして波紋を呼び、新華社通信はこれをうけて「日本国民が最も心配しているのは食品でなく、五輪入場券を買えないことだ」と配信した という(4月16日報道)。日本の「曖昧さ」や中国通信社の「狡猾さ」はともに世界の人々の耳に届く「世界語」から遠いところにあるのは言うまでも なかろう。

 問題の発端となっている聖火リレーをめぐっても莫さんはこう書く。「聖火リレーへの妨害は世界に溶け込む過程で一つの通過点にすぎない」。しかし中国は ダライ・ラマとの対話を促すフランスを「中国の主権を侵害している」と不買運動で対抗し、大手のニュースサイト「浪網」には「偉大な中華民族をバカにして いる」といった書き込みが絶えないという。当局は反仏デモにたいして黙認と抑制を使い分けるという一党独裁ならではの手法でガス抜きをしながら権力保持を 図る。そこには何の実りもないのだ。

 胡錦濤主席来日の5月6日、聖火リレーの北京市内ルートが変更されると報道された。今年初めまでのルート設定は万里の長城から主会場・鳥の巣 (国家体育場)へ、56か所を縫って、それが「和」の字になるという仕掛けだった。だが、妨害を警戒して変更するというのだ。「変更後のルートは直前まで 明らかにされないが『和』にならない」という。「和」は中国古来の偉大な知恵だ。「論語」や「礼記」でも説かれ、日本でも「和ヲ以ッテ貴シト為ス」は 聖徳太子の十七条憲法でうたわれてきた。「和」こそ「世界語」の精華なのになぁ…。

     <このあと、四川大地震発生。被災者に心からのお見舞いを申し上げ、復興を祈るや切である>

 
 
今月のコラム【待合室】へ戻る

 



医療新報MENUへ戻る