2005年10月1日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★逃亡医師 「里帰りの人は分娩を受け付けないことになりました」の掲示が張り出されて呆然と立ちすくむ風景。地域の中核病院で産婦人科が続々と姿を消しているのだ。少子化対策推進のなかで、女性が産みたいところで産めないのだからヘンな話だ。これすべて産婦人科の医師不足。なり手がすくないのである。深夜の出産など夜間拘束が多く、医療訴訟も多いところから医師の卵たちが敬遠しているというのだ。その実態は筆者に言わせたら「敵前逃亡」以外のなにものでもない。大金をかけてやっと医学部を出た。さあ、なるべく平穏な診療科目を選び、やがてしゃれた家にすみ、高級車に乗って、休日はゴルフを楽しむ…。そんな時、時間をえらばぬ出産が目の前にあってはかなわん、というのであろうか。かつて古き良き時代には「医は仁術」という美しい言葉がいきていたものだ。
 
 ★暴力医師 手術中の患者が体を動かし「痛い!」などと声を上げた。そんな時、医師はどう対応するか。一般論からいえば、患者もいろいろで、なかには我侭な患者もいるであろう。だが、すくなくとも手術中は患者は医師にすべてをお任せするという厳然たる状況が存在する。ところがである。滋賀病院で、30代の男性医師が90代の女性患者に「じっとしておけ!」などと暴言を浴びせ、患者の額の右側を拳で1回殴ったというのだ。手術介助の看護師の報告で問題になった。同病院によると以前から患者への態度が横柄で、苦情が寄せられていたという。
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 注射を怖がる子どもに「痛くないよ」と声を一言かけてやるだけで痛みは弱まる。それが科学的に裏づけられたという実験結果が、このほど米科学アカデミー紀要(電子版)に発表されたという。実験の内容は紀要に譲るとして、言葉の鎮痛効果は臨床の場で重視してほしいもの。暴力医師はまさにこの裏返しをやっていたわけである。
 
 ★感動医師 終りに感動をよぶエピソードを。この話を報じた朝日新聞(8月25日付)の記事に心を洗われたのは筆者ひとりではあるまい。主人公である小児科の勤務医、渡辺直樹さんは全国各地の風景を描いた手作りの「にほん町絵かるた」に取り組んできた。「一人でも多くの闘病中の子どもたちに、旅の気分を味わってもらえれば」との願いをこめて絵札を約1年がかりで色鉛筆で描き上げていった。このさわやかな志が周囲の人々の熱い共感をよんだ。勤務先の病院職員が原画をパソコンにいれる作業を手伝い、高校時代の友人は知り合いの印刷会社を紹介、制作費80万円は知人たちの寄付でまかなった。さてそのかるたを全国の病院に送るには絵札と読み札をいれる箱がいる。渡辺医師は北大の大学院時代に食べたことのある「六花亭製菓」(北海道帯広市)のチョコ箱を思い出して、協力を依頼する手紙を出した。社長は「子どもたちのために是非協力したい」と、かるたにあわせた1千箱を無料作製し、そのうえ病院への配送も引き受けてくれた。このエピソードからは「かるた」の絵に勝るとも劣らない心温まる風景がうかびあがってくる。
  
 
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