2005年9月1日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★悪魔のような病気 大手メーカー「クボタ」が旧神埼工場(兵庫・尼崎市)の周辺で住民がアスベストによる中皮腫(ちゅうひしゅ)に冒されているのが明るみに出たのは4月のことだった。それまで公表もされず、深刻な問題として受け止められもせずに積み重ねられてきた恐るべき病気の実態がいま国民の前に一挙に露呈され、列島を恐怖のどん底に陥れている。中皮腫という聞きなれない病気の不気味さ。肺を包む胸膜や消化器を囲む腹膜など「中皮」とよばれる膜組織にできる「がん」だ。奇病に近かったこの病気の患者が増えているのである。過去に石綿を吸い込んだことが原因で発病する。潜伏期間は30〜50年だが、発症後の進行は早い。この中皮腫は肋骨のそばの胸膜に沿ってがんが薄く拡がるため胸部X線検査では発見しにくく、早期発見は困難だ。なかなか正体を現さないのである。この悪魔のような病気にこれまでどんな対策がとられてきたのか?
 
 ★悪魔のような鉱物 安価で熱に強く「奇跡の鉱物」ともてはやされてきたアスベストだったが、実は「悪魔の鉱物」だったのだ。それは早くから知られていた。海外でアスベストの危険性が指摘されて40年以上経つ。WHOが発がん性を断定してからでも15年経つ。日本でも労働省が中皮腫とアスベストの因果関係を認定したのは27年も前のことであり、旧環境庁は16年前から危険を認識していた。その間、EU(欧州連合)は今年にはいってアスベスト使用を原則全面禁止にしたが、日本では08年までに全面禁止の方針をようやくきめた。遅れること3年。行政の悪魔のような「不作為」は厳しく問われるべきだ。だが、行政だけではない。犠牲となっている労働者を守らねばならない立場にある連合は何をしてきたか?11年前、旧社会党が「石綿規正法」の法案を提出しようとした時、反対したのが連合だった。法制化は断念された。反対の理由は「急な規制は雇用不安に」だった。この恐るべき身勝手さ。産業界は産業界で「労災」には目をむけるが深刻な「公害」には麻痺しているかにみえる。過去にこのような事を何度みせつけられてきたことか。「薬害」、「水銀害」……。そしてまたも悪魔にとりつかれたかのように、目の前の自己保全や利益追求が最優先され、行政の不作為や連合の身勝手さがクローズアップされている。
 
 ★悪魔のような仕業 アスベスト公害真っ只中の8月14日、京都府和束町で道路わきの草むらにアスベストの詰まった麻袋が35袋も投棄されているのが見つかり、隣町の農道わきの竹林ではアスベストを混入したセメントの塊りがみつかった。処理に困った業者が不法投棄したと思われる。このニュースの10日前には北海道の酪農家が牛の死に方がおかしく「BSEだったらどうしょう。知らん振りして棄ててしまえ!」と、自宅から800メートル離れた隣町の河川敷に雌の乳牛(6歳)の死骸を埋めてしまった事実が明るみに出た。その酪農家は言う。「伝染病だと経営に響き、近くの農家にも迷惑をかけることになると思ったので…」。まるで悪魔の仕業のような身勝手さは個々人の心にも潜んでいることを忘れてはならない。それにしても、身の毛のよだつ思いだ。
  
 
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