2005年8月1日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
このコラムに関するご意見、ご感想をお寄せください。
 
 
 
 ★奇 人 官も民もテレビの前で不祥事に頭を下げる風景は毎度おなじみ。そしてきまってこのセリフ。「あってはならない事が…」。これもつい最近の「あってはならない事」の一つ。滋賀県日赤血液センター(草津市)の課長がB型肝炎ウイルスに感染しているのを知りながら、偽名で6回にわたって献血していたというのだ。血液中に肝炎の免疫があることが確認され、安全性に問題はないそうだが、日赤基準では献血を禁じている。偽名を使い自らルールを破ってまでなぜ献血したのか。「血液不足なので協力したかった」とくる。その感覚は正常人には理解できない。最近、医療のベテランが書いた「白衣を脱いだらみな奇人」(平盛勝彦著・日本評論社・2100円)という本の一節を思い出す。「欲しいものにはすぐに手を出し、自分の責任を深刻に考えない」、こんな「人間音痴が医者をしてはならない」と一刀両断。少なくとも医療に関連する仕事に従事しているこの課長、「白衣」ならぬ「職能」をはいだらこれまた奇人だったというところ。危ない、危ない。ちなみに採決担当者は「上司なので注意出来なかった」と。組織腐敗のにおいさえ漂ってくる。
 
 ★難 民 献血・輸血といえば、小さな病院では輸血責任者が不足しており、十分な安全措置がとられていないという危機的状況にあるというが、がんの専門医不足も深刻だ。患者は自分に合った抗がん剤を求め、最適の医師を求め、遠距離通院を余儀なくされ…、がん治療の格差のなかでのた打ち回るように放浪を続けている。「自分を助けてくれる医者を必死でさがす難民です」とはがん患者の悲痛な叫び。3人に1人ががんで死亡する時代、医療行政は目の前の難民を救わねばならぬ。悠長なことを言ってはおれないのである。
 
 ★孤 児 アジア・太平洋地域で親がエイズで死亡したエイズ孤児が150万人にものぼるという。この数字は出産可能な年齢の女性人口や出生率、エイズ罹患(りかん)率などに基づいてユニセフが推計した数字である。この孤児たちのなかの何と12万1千人が自分自身エイズの感染者であり、昨年だけでも新たに4万7千人が感染者となっている。孤児でないまでも、親がエイズウイルス感染者であれば、差別されたり家族の生計を得るために働かなければならない。そんな子どもたちが350万人にもたっしている。かつて60年前、日本列島に戦災孤児が路頭にあふれていた情景が、心に痛烈に蘇ってくる。
  
 ★忍 者 お前は悪の忍者かといいたくなるのが、鳥インフルエンザ。一昨年、アジア全域で1億羽を超える鳥を殺処分。そのためか昨年は沈静化し、日本での関心も急速にうすれていった。と、突然この6月、無気味な姿を現してきた。水海道(茨城)で採卵養鶏場の鶏から毒性の弱い高病原性鳥インフルエンザ・ウイルス(H5N2型)が検出され、にわかに緊迫。2万5千羽を処分したが、専門家は「弱毒性なので感染鳥から排出されるウイルスは少ないはずなのに5養鶏場から抗体がでた。全く予想外」と驚く。忍者が現れるのは、昔からいつも予想外なのだ。小手先の戦法では忍者の跳梁を許すばかりである。
 
 
に戻る
今月のコラム【待合室】へ戻る

 



医療新報MENUへ戻る