待合室
2004年10月1日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★DOPING 秋風と共に壮大な祭り・アテネ五輪の興奮は静かに退いてゆく。そんな中で、今なおホットな五輪の話題はドーピング。男子ハンマー投げのアヌシュ選手(ハンガリー)が金メダルを剥奪され、「銀」の室伏選手がその「金」に。当然である。
 ドーピングの「ドープ」はもともとアフリカ東南部の原住民が祭礼の時に飲む強い酒のことを指していた。のちに広く興奮性飲料をさす用語となった。スポーツの世界ではすでに古代ギリシャの競争者に薬物が利用されていた。それが20世紀にはいるや東西冷戦下の東欧でエスカレートし、地下でその研究がされた。筋肉増強剤は驚異的だった。極端な力が不気味なほどつくのだ。性格も攻撃的になる。ミュンヘン五輪での東欧の圧倒的な力はそれをしめした。だがその後遺症もてきめん。人間性の根幹にまで突き刺さってくる残酷なものであった。それでもなお、並外れた名誉とお金を前に、肉体を薬漬けにしてまでその欲望を満たそうとする。ドーピングは旧東欧の深い闇にいまなおうごめいているのだ。
 
 ★DRUG こうした国家的規模の薬物依存症は中高生の間に「MDMA」などの合成麻薬が出回り、健康な心身を急速に蝕む現実と直結している。心の弱い者は、こうした興奮剤や幻覚剤に依存しないと、みんなと一緒にやっていけない。人から抜きん出た仕事もできない。そこで薬に頼る。だが、ドラッグは一度やると止められないのだ。「最初はいい気分にしてくれる天使の顔だが、すぐに使わずにはいられなくなり、心も頭も蝕む死に神の顔に変る」。水谷修著「ドラッグなんていらない」(東山書房刊)はそんな恐ろしさと危機感に満ちた絵本だ。アヌシュ選手のそれのように、天使の顔が一挙に死に神の顔になってしまう恐怖が伝わってくる。
 
 ★SARS 実に薬は両刃の剣だ。秋風と共に再びクローズアップされてくるのがSARS(新型肺炎)。このウイルスの増殖を抑える化合物を理化学研究所などの研究チームがみつけたという。朗報だ。まだ実験の域をでていないが、今後、SARS患者が発生した段階での臨床試験を検討するという。ここでは薬が人々を救う最大の武器になろうとしている。ウイルス攻防の最前線で人々を救うためにたちはだかるのは、薬の開発へ向かう人知であろう。こうした人知のエネルギーを事もあろうにドーピングの攻防戦につかわれるなんてまっぴらご免だ。
  
 ★DMAT 記録的な酷暑だった。そこに台風(16,18号)、地震(東南海)、噴火(浅間)とまさに列島は天変地異の夏だった。ここで注目されるのが、日本版DMAT(災害時医療支援チーム)である。アメリカでは80年代から活躍し災害地で負傷者の治療にあたってきた。チームは命にかかわる外傷(クラッシュ症候群など)を中心に治療すると共に、被災地外の大病院にヘリで搬送する機動力も兼ね備える。首都圏の大地震では100チームが必要という試算もある。一刻も早いシステム化とその充実化を熱望してやまない。
 
 
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