待合室
2003年6月25日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★サーズ・台湾医師の波紋 サーズ(SARS・重症急性呼吸器症候群)騒動は人間の身勝手さや醜悪な側面を次々にさらけ出している。これもその一例だ。台湾から若い医師が身分を学生と偽って日本観光にやってきた。この医師はサーズ患者を隔離収容している病院の医師だ。その医師がいまこの時期に不要不急の観光に出るというのは何のつもりなのか。その観光中に熱があり体調もおもわしくなかった。帰国してサーズ発症。日本は大騒ぎとなった。医師としての自覚のなさには仰天するばかりであった。困ったものである。
 
 ★サーズ・院内感染の恐怖 こんな医師がいるからとは速断したくはないが、台湾でのサーズ拡大が止まない要因の一つは病院の対応に甘さがあることはあきらかだ。あの若い医師の勤務病院である馬偕記念病院もさることながら、これは台北市立和平病院での事例。多数の看護師らが発熱などの症状をしめした時、院長は単なる過労による発熱と院内感染を認めようとしなかった。北京のサーズ拡大も患者を受け入れた多くの病院の院内感染からだったが、この病院でも院長会見の数日後には集団感染が発生。台湾のサーズは拡大の一途を辿る事態に激変していった。4月中旬のことである。院長解任ではすまされぬ汚点を台湾のサーズ対策に刻んでしまったのである。対応の鈍感さは総統の怒りにも触れた。困ったものである。
 
 ★サーズ・統制体質の敗北 中国はやはり信用できない、中国はまだまだ―こんな批判の声が中国の初期サーズ対応で聞かれた。情報隠しは国家体制の問題であり共産党一党独裁の下では言論の自由はない。そればかりか当局は真相を明かさないまま「安全宣言」を出したりした。ここで思い起こすのは旧ソ連で発生したチェルノブイリ原発の放射能漏れの大事故だ。31人死亡、悲惨きわまる後遺症の傷跡を残した史上最悪の事故をソ連が公表したのは2日半が過ぎてからである。それもスウェーデンで放射能異状が観測され隠しきれなくなったからだ。今回のサーズも、中国誌の報道によれば北京市当局が3月の時点で大学病院に隠蔽を指示したとされている。だが、拡大する感染被害に隠しきれなくなったのである。そこに共通するのは国家の統制体質の敗北だ。困ったものである。
  
 ★サーズ・日本官僚も敗北 中国やソ連の事だけをいってはおれない。台湾医師の問題では、逸早く大阪の開業医から関西空港検疫所に的確な第1報があったのに「承っておきます」の返事。いくらなんでもこれはないだろう。ようやく(別ルートからも)国に情報が伝達されても、これまた足踏み。あっちにひっかかり、こっちにひっかかり…。ここには危機感のカケラもない。それに加えるに、記者会見でその硬直さを問い詰められると、子供の言い訳みたいな幼稚な弁明の繰り返し。官僚制度の硬直化、腐敗、無力などなどを露呈してしまった。危機管理の危機―危惧されていたことが、はからずも現実となってしまったのである。困ったものである。 
 
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