待合室
2003年1月25日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★ もう一つの懸念 昨年から動きのあった「クローン人間」。ついに新春早々、私たちの目の前に突きつけられた。スイスに本拠を置く新興宗教団体「ラエリアン・ムーブメント」の発表によると、昨年12月27日に30代のアメリカ人女性がクローン女児を産んだということだったが、年明けの3日夜、たたみ込むように世界で2人目のクローン人間をオランダの女性が産んだという記者会見の模様を見せつけられてしまった。真偽のほどは速断できないが、人為的に、それも男女両性が関与しない生殖--人間の尊厳を侵害しているではないか!と声を荒げても仕方がないのか。
 ここまできたら、もう今更ここで生命倫理談義とか神の領域とか言うつもりはない。SF的近未来の一つのスケッチ「男は自滅する?」を紹介しておくにとどめる。「クローンっていうことは、精子なんか必要ないってこと?オスだの男だの全然関係ないわけ?メスだの女だのだけで繁殖できてしまうわけ?」(中野翠)。
 
 ★もう一つの無免許暴走 日本のHIV感染者(血液製剤によるのはのぞく)は年々増え、01年には621人と過去最高になった。しかもその3分の1は20代であり、先進国で感染者が増え続けているのは日本だけだ。若者の知識や行動には目に余るものがある。「国連エイズ合同計画」は昨年の報告書で、日本では若者の性行動が大きく変化し、HIV感染の危険が増大していると指摘している。防御の基本であるコンドームは使われず、怖さ知らずの無防備なのだ。「性の健康医学財団」の熊本悦明会頭は言う。「無免許で暴走運転している状態です」。
 
 ★もう一つの女性受難 人工授精の妻がウイルス除去の不十分から、HIVに二次感染してしまったという痛ましい事件が西日本の大学病院で起こった(昨年11月24日報道)。この不妊治療は最新枝術を採用しておらず、大學の倫理委員会のチェックも受けていなかったという。最相葉月さんのこんな文章を思い出す。「不妊治療の病院では胚操作の専門家が卵子と精子を受精させてくれる。自分で精子をとるお父さんにはエクスタシーがあるだろうが、お母さんは排卵誘発剤の副作用で苦しいだけ」。
  
 ★もう一つの医療不信 病院に出かけると、「心付けは辞退させて頂きます」という掲示をみかける。医師と患者にとって大切なのは何よりも心のつながりである。感謝の気持ちが大事であって、モノやカネを贈っても治療内容に影響はないと考えたいのだが…。「謝礼を入院中に渡したとしても、便宜を図ってもらえることはまずない。まず元気になって、お礼のことはその後で考えて」と呼びかけられても、現実はそうはいかない。根強い慣習として残っているのを打破することは容易ではない。ここでも患者の弱い立場がクローズアップされてくるのである。そして、医師のこんな感想も耳にしてしまう。「おカネを払わないと、ちゃんと診てもらえないのでは、と心配なのか。医療への不信があるんだなあ」。
 
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