待合室
2002年11月25日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★前事忘れざるは後事の師 「助けてください」と叫ぶ母…岩手県一関市での小児科医不在による乳児死亡事件(9月)はまだ記憶になまなましい。相変わらず急病の子どもが全国どこでも救急医療を受けられる状況は程遠い。多くは小児科以外の医師が診察し、手に負えないと判断した時に小児医を呼びだす「オンコール方式」や小児科医のいる地域の病院への搬送で対応しているとみられる。
 ここで思い出すのだが、かつて日中国交回復の交渉で田中角栄が周恩来から「前事忘れざるは後事の師」という言葉を贈られた。意味は「あの不幸な事態を銘記し、同じ失敗を二度と繰り返えしてはならない」ということである。
 小児科救急の現場ではいま薄氷を踏む思いの試行錯誤が続いているであろう。この際、「前事」を忘れず、一日も早く打開の道をひらいてほしいものだ。
 
 ★過(あやま)ちては則ち改むるに憚(はばか)るなかれ 前項の問題に関連して、いま話題になっている「医療特区」というのを考えてみたい。これは小泉内閣が進める規制改革の「目玉」の一つで、「経済特区」や「教育特区」などと共に提示されているものだ。その構想の焦点は特区内で株式会社による病院経営、つまり「病院会社」を認めようということ。そこでは規制をゆるめ、新しい技術の導入や医療の活性化を図るのが狙い。サービスを競わせ患者に選択の幅を広げようということでもある。
 ところが厚労省や日本医師会はこの構想を拒み続けている。理由は「収益優先になり、手間ひまのかかる患者が敬遠される」ということらしい。だが、「特区」を後押しする経済界は「いまの医療は本当に非営利なのか」と反撥。議論は平行線を辿っている。
 しかし時代の閉塞状況の中では、新しい試みにも取り組むことも大切だ。そこには現状の改善に役立つ道があるかも知れない。まずは試してみる。もし不都合な事態がみえてきたら改めるに憚ることはないのである。
 
 ★小利を見れば、則ち大事成らず 医療不信が言われている。患者と医師の相互不信もさることながら、より深刻なのは医師同士の相互不信ではないかとの指摘がある。こうした風潮は医療改革に大きな弊害をもたらすことは明らかだ。
 たとえば手術件数により保険の支払い額が変動するという制度がこの四月から始まったが、ここで件数を満たそうと不要な手術が行われるようになるのではないか、つまり、お金のために不要な手術もありうると、当然のように考える医師がいるということだ。専門医がほかの専門医を疑心暗鬼でみているということでもあり、医療関係者の信頼関係がなければ、よりよい医療制度の確立などとても出来るものではない。
 孔子はこうアドバイスしている。「小利を見れば、則ち大事成らず」と。医療界は長期の目標を立て、その目標に向かって一歩一歩着実に前進を図るべきであろう。そうすればあせることもないし、小利にまどわされることもないであろう。

                            
 
 
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