待合室
2002年9月25日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 この半世紀、あらゆる分野が熱病にとり付かれたように「スピード」を追い求めてきた。この「スピード」への歪みが戦後57年にしてようやく「これでいいのか」という声となって現れてきた。

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 ★スローウォーター 肌荒れなどある種の皮膚病が水道の水質と因果関係にあることはすでに指摘されているところだ。まして飲んでおいしい水道水を求めるのは無理である。なぜか? 日本の浄水場の大半は急速ろ過方式であるからだ。これは大量の薬品を使って速く大量に供給する米国方式の影響でもあった。このスピード至上主義の急速ろ過にたいして緩速ろ過方式が再評価され始めてきた。スローウォーターへの見直しである。 
 これはいわば井戸水を人工的につくる装置である。大きな池が必要だが、池の底には細かい砂や砂利層を設け、そこをゆっくり水が落ちてゆく。その間に水の汚れや濁り、大腸菌などを除きながら、飲み水に変えてゆくのである。薬品に頼らず生物の力でゆっくりと浄化してゆく。蛇口をひねればミネラルウォーターが出てくるのだ。俳人・山頭火はかつてこう詠んだ。「濁れる水の流れつつ澄む」。
 
 ★スローフード 水でいえば緩速ろ過であり、これに対してファースト(速い)フードは急速ろ過である。化学肥料を使わない質のよい地場の食べ物を手間暇かけて料理して味合うことへの再評価。たとえば、空海の弟子、智泉が中国から持ち込まれたものを改良して創ったのが端緒といわれる讃岐うどんは、地場のおいしい水とおいしい塩があってこそである。注文すれば簡易に合理的に提供されるファーストフードの向こうに傳統食があり、山村文化の見直しがみえてくる。これは世界的な風潮でもある。10月末、イタリア・トリノではスローフードの祭典が開かれる。世界各地の文化に根づいた食品を次世代に残そうというのが催しの趣旨だ。
 
 ★スローヘルス やせ薬を前回取り上げたが、やせるための薬頼り自体が「スピード」の歪みであろう。子供の肥満が問題になって久しいが、母親の食生活や生活習慣が大きな影響を及ぼしていることはかねて指摘されているところである。中年太りとて例外ではあるまい。スピード社会の波に溺れていく姿がみえてくる。医療が東洋医学に注目するのは「スピードヘルス」への提言にほかならない。中国の針治療からヒントを得て開発されたSSP治療器(日本メディックス=本社千葉県松戸市:社長:山根耕太郎)は「スローヘルス」を医学的、科学的に開拓したものとして画期的だったが、近年注目度を一層高めているのはそのためである。

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「スピード」をすべて否定するわけではないが、「スピード」がこの国を破壊してきたことは確かだ。すべて戦争前の日本に戻せと言うわけではないが、古き良き時代の文化を崩壊してきたこともまた確かのである。
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