待合室
2002年7月25日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★禁煙も発信 多彩な情報を発信してくれたW杯サッカーが終わった。祭りのあとの一抹の寂しさ。しかしW杯を一時の興奮にしてはならない。――そう考え、そうした努力が確実に進められてゆく。そんな中でW杯の開幕を告げた日の世界禁煙デーやW杯禁煙大会の側面も忘れてはなるまい。禁煙デーを風化させまいとしたわけではないだろうが、ニューヨーク市でタバコ値上げ。これが半端でない。市税が倍増されたのである。たとえば人気銘柄のマールボロ1箱(20本)900円。愛煙家には厳しい値段である。他山の石としたいものである。
 
 ★日帰りOK 日帰り手術が注目されている。日本で広まったのは95年以降だが、アメリカでは70年代から進展してきた。入院費用が高いのがその要因だ。だがしかし、こうした趨勢に応えて、安全確保のための手術や麻酔の新技術の開発が進められ、今では全手術の8割が日帰り手術であるという。こうした患者の立場にも呼応した医療への医師の努力はよろこばしい限りである。
一方ではこんな衝撃的な二ュースも――。
 
 ★医師の逮捕 ついに医療ミスによる医師の逮捕者が出た。88年、鹿児島県内の医師が誤った造影剤を投与し患者2人を死亡させた事故以来である。今回は、東京女子医大病院の心臓手術ミスで12歳の少女が死亡した昨年3月の事故である。カルテ偽造の疑いも問われている。捜査によって病院の「密室」体質が厳しく問われる異例の展開となった。
 
 ★残念だが… 東京女子医大病院は学閥に関係なく、自分の技量に自信のある有能な若い医師たちがあつまってくる。大阪の船場ではないが、優秀なムコ殿と養子縁組するという形のスカウトによって事業は発展してゆくという理念に似たものがあった。今回逮捕された医師はそんな病院のなかでも心臓血圧研究所という、いわば「職人の集団」を自他共にゆるす職場で地歩を着実に固めてき。少なくとも職人的なウデを磨いてきた医師の一人が消えていったのである。
 ――と思う私の心を突き刺すのは、同大学に10年勤務した経験のある心臓外科医の次の言葉だ。「心臓手術では日本一という驕りがあったと思う」。
 
 ★無残な欠落 林・病院長は答えた。「技術優先で、心を大切にしないと医療が成り立たない時代に遅れた」と。無残な欠落の弁明だ。宮大工・西岡常一氏の言葉をおもいだす。氏は宮大工の口伝を紹介する(「木に学べ」)。「神を崇めず、佛を拝せずして堂塔伽藍を口にすべからず」、「住む人の心を離れて住居なし」など。そして最後の条は「諸々の技法は一日にして成らず、祖神達の徳恵なり」である。西岡氏は言う。「技法は技術とはちがいまっせ」。これぞ職人魂の真骨頂である。逮捕された医師にわかってもらえるであろうか。
 
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