2015年6月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★ときには医学常識を疑う力も必要

 
 「血圧が高いですねぇ、薬を出しておきましょう」
 「えっ、薬ですか?」
 「ええ、高い血圧が続くといろいろと問題が起きてきますから…」

 こんなやりとりがあって以来、10年以上同じ薬を処方されている。血圧は一日の中 でも変動の大きい数値だから最初のころは毎日、起床排尿直後と就寝前に熱心に記録 をつけていたが、ある程度長いスパンで記録をつけていると、「まぁ、こんなものだ ろうと」興味も薄れてくる。就寝前に飲む薬はときどき飲み忘れる事もあるし、長い 出張なのに薬をカバンに入れ忘れたこともあるがそれが原因で血圧が上がってしまっ たということは一度もない。むしろきちんと薬を飲んでいても、ストレスを溜めてし まったり太ってしまったりした時期は高めの数値が出るということもわかった。今は 自分で血圧を測ることはほとんどない。数ヶ月に一度、診察時に医師が測定してくれ るだけである。

 こうして考えてみると、果たして10年も飲み続けてきた薬は本当に必要だったのだろ うかと思うこともある。しかし、医師に相談しても「うーん、そうですねぇ」と、言 うだけで減薬や断薬の話にはあまり積極的ではないようだ。そうこうしているうち に、こっちも「現状を維持しているのだからこのままでいいじゃないか」と、思って しまう。

 高血圧、高脂血症などの生活習慣病といわれる疾患での治療薬はいつまで飲んだらい いのか。市販されるカゼ薬の添付書を読んでも、ある程度服用しても明らかな改善が 見られない場合は一旦服薬を中断し医師の診断を受けるよう明記されているのに、現 状維持で投薬を持続する医師がほとんどである。もし、その治療薬が無害であったと しても有効でなかなかったとしたら飲み続ける意味があるのだろうか。たとえ副作用 が無かったとしても死ぬまで永遠に飲み続けることになる。それこそ医療費の無駄遣 いではないか。

 1980年ころまでは胃に潰瘍が見つかると切除手術をするこが日常的にあった。その 後、胃潰瘍形成のしくみが明らかになり、胃がんとの関係が究明された今日では潰瘍 だけで胃を切除することなどまずありえない。同じように風邪をひくと決まって処方 されてきた抗生物質はウイルスには効果が無いことがわかり、現在では細菌性の炎症 が認められない限りほとんど処方されることはない。開腹が普通だった胃や胆嚢の手 術が内視鏡下で行われるようになったり、iPS細胞を使った角膜再生移植が可能に なったりと、まさに医療の世界は日進月歩である。新しい発見や研究の成果が実るた びに医療の世界では今までの常識が突然覆ることがしばしば起こる。

 こうした技術革新のヒントは日常のふとした気付きから生まれることも多いといわれ る。あの丸山ワクチンで知られる故 丸山千里博士は皮膚結核やハンセン病の治療に 打ち込む中で、あるときこの二つの病気には不思議とがん患者が少ないという共通点 に気付いたという。この気付きがワクチン開発研究のきっかけだったといわれてい る。

 患者のほうも少し視点を変えて自分が飲んでいる薬を見直してみたり、生活習慣を本 気で改善しているか、本気で病気を治そうとしているだろうかと、考えてみる必要が あるのかもしれない。

 
 
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