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先日、横浜で「もうどく展」という展示を覗いた。展示そのものは小規模であった
が、ふだんあまり目にすることの出来ない珍しい生き物が展示されていて大いに勉強
になった。蛇や蛙、魚や貝などの生き物には毒を持ったものがいる。生き物が毒を持
つに至った経緯は外敵から身を守るためであったり、餌となる獲物を捕るためであっ
たりと、その目的はさまざまのようだ。こうした生物由来の毒は生き物が生き残って
いくなかで獲得してきたものだろう。
カモノハシやトガリネズミなどごく一部を除けば哺乳類には毒を持つものがほとんど
いない。活発に動ける恒温動物には狩りや身を守るために毒を持つ必要性は低かった
のかも知れない。毒性の指標としてよく用いられるLD50(半数致死量)で最も猛毒
なのは、ハワイのマウイ島に生息するマウイイワスナギンチャクというイソギンチャ
クの仲間でLD=0.00005〜0.0001mg/s。なんと青酸カリの8000倍、フグ毒のテト
ロドトキシンの60倍も強烈な毒を持つという(今泉忠明著「猛毒動物最恐50」・サイ
エンス・アイ新書)。そうかと思えばナマコの仲間であるアデヤカキンコ(写真)は
魚類に対してサポニンという物質を分泌するが、サポニンはいわゆる界面活性剤でヒ
トにはほとんど毒性はない。
ヒトはむしろはこれらの猛毒生物から毒を採取して狩などに利用し生き延びてきた
といえる。古くからアマゾンの奥地に住むインディオの人たちの話は有名だ。熱帯雨
林に住むヤドクガエルと呼ばれるカエルの皮膚から採った毒を吹矢の先に塗って狩を
していた。シカやサル、時には部族間の戦闘時にもこの毒が使われたという。このこ
とからヤドクガエルと呼ばれるようになった小さなカエルは、ダニや昆虫を餌にして
いる。土壌中のオトヒメダニや、そのダニを食べたアリ、テントウムシを食べること
でカエルの体内にプリミオトキシンという毒が濃縮される。この毒が刺激を受けたカ
エルの皮膚に分泌されるという仕組みらしい。
自然界では昆虫や小動物は通常身を守るために周囲の枯れ枝や木の葉に紛れて暮ら
すことが多い。ところがこのヤドクガエルは実に鮮やかな色をしている。あたかも
「おれは猛毒を持っている。喰えるものなら喰ってみろ!」と挑発しているように見
えるのだ。実際にこのカエルは昼行性で密林の中を跳ね回っているそうだ。そういえ
ばタマゴテングダケという毒キノコも派手な色をしているし、ヤマカガシという蛇も
毒腺のある首の辺りは綺麗な赤い色をしている。近づくなと警告を発しているのかも
知れない。

アデヤカキンコ もうどく展(オービィ横浜にて)
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