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線虫という虫を使って患者の尿の匂いをかぎ分けさせ早期のがんを診断することが出来るというニュースが飛び込んできた(米国オンラ
イン科学誌『PLOSONE』 2015年3月12日)。発表したのは日本の九州大学の研究チーム。同日の九州大学広報室プレスリリースによれば、九州大学
大学院/味覚・嗅覚センサ研究開発センターの広津崇亮助教らの研究グループは、がんの匂いに着目し、線虫がヒトの尿を嗅ぎ分けて高精度にがんの
有無を識別することをつきとめたという。しかも、この技術が実用化されれば尿一滴でさまざまな早期がんを短時間に、しかも安価に(数百円)
高精度に(約95%)検出できるようになることが期待できるという。
この研究のきっかけは、広津崇亮助教と同じ研究チームの園田英人外科医が日常診療の中で、アニサキス症の患者に胃がんが多いという印象を持ったことに端を
発しているという。アニサキス症とは、鯖やイカなどに寄生している線虫の仲間であるアニサキスが、刺身などを食べた人の胃壁に喰いついて強烈な痛みを訴えた
り、蕁麻疹を起こしたりする症状である。このことから、園田医師が「ひょっとしてアニサキスは胃がんの匂いが好きなのかも知れない」と、線虫の嗅覚を専門に
研究していた広津助教に話をしたことからはじまったというのだ。
線虫とは、線形動物の一種でヒトに寄生する回虫やぎょう虫などの仲間。広津崇亮助教らの研究グループが注目したのはカエノラブディティス・エレガンス
(C.elegans シーエレガンス)と呼ばれる体長1ミリほどの透明な体を持つ線虫。シーエレガンスは土壌に生息し細菌類を餌にしている。1998年、多細胞生物とし
ては初めて全塩基配列が解読(ゲノムサイズ9700万bp、遺伝子数約19000個)されたことで知られ、実験材料として優れた性質をもつことからモデル生物として研究
者の間ではポピュラーな存在として活用されている。
生物が刺激に対して移動する行動を「走性」というが、線虫は匂いに対して寄る、逃げるといった走性行動を示すことが知られていて、その嗅覚神経はイヌとほぼ
同数の嗅覚受容体を持ち、麻薬探知犬のように有害・有益物質の匂いを嗅ぎ分けるという。
一方、がん患者の汗や呼気、尿などの匂いは健常者と異なっているといわれ、体の中でがん細胞が活動したり、死滅したりするときに出る匂いの化学物質が健常な
細胞とは異なっていて特有の匂いを発生するらしい。これを利用すれば匂いでがんの有無を識別できるというわけだ。実際、動物を使って患者が放つ匂いからがんを
見分ける研究は犬で先行していて、日本医科大学千葉北総病院(千葉県印西市)の宮下正夫教授によれば、犬は子宮がんや乳がんの判別ができているという
(日本経済新聞)。
ただ面白いことに、線虫のシーエレガンスは同じ匂いの成分でも濃度によって嗅覚神経の受容体が異なるのだという。この性質を利用することでごく初期のがんも発見で
きるということらしい。たとえば糞便臭の元であるインドールという物質はそのままでは悪臭を感じるが、薄めていくとジャスミンのような匂いになるという。つまり、
好きな匂いでも濃すぎると逆に嫌いになって寄り付かないのだ。広津崇亮助教らは、がん患者の尿を希釈してシャーレの端に一滴たらし、反対側にシーエレガンスを置い
て実験をしたところ、95.8%の確率でがん患者の尿にシーエレガンスが集まってくることを確認したという。
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