2013年12月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★秘密は研究の足かせとなり情報の闇となる
   

 科学や枝術は様々な目にさらされて初めて進化する。そうした研究成果の非公表などの影響やそれが拡大してゆくことが懸念される 主な研究分野は、宇宙開発、航空機開発、原子力、そして感染症などがあげられるであろう。

 特にウイルスや細菌の研究で、研究成果の公表が制限されれば、感染症から人々を守る公衆衛生分野での支障が広がってゆく。感染症の 大流行を防ぐには情報を国際的に共有し、ワクチンや治療薬の開発や病原体監視などにいかさねばならない。

 そのような意味でも、今や最大の関心事のひとつとなっているのが、「特定秘密保護法案」だった。国会のセンセイ方は12月を文字通り「師走」の月になぞらえて か、血眼になって走り回っているようであった。強硬採決をかざして、荒れる国会はいったいどこへ行く!


 そもそも、何かを隠したままにしておきたいなら、まずその何かが存在することさえも、他人に知られてはいけないのである。「秘密という言葉はどこか間が 抜けており、子供だましっぽいところがある」と円城塔氏(芥川賞作家)のペンが軽快に走っていくのを読んだ。「本当に何かを隠したままにしておきたいなら、 何かが存在することさえも、他人に知られてはいけない」のだ。つまり「秘密とは何か?」は「それ自体が秘密なのである」。「秘密という言葉には、どうも、 うかつなところがあって、下手なうそをついたみたいに1度口に出してしまうとどんどん続けてしゃべらなければいけない羽目になったりする」。

 「秘密というのは」とペンはなおも走る。「非常に思わせぶりな上に、いくらでも屁理屈を積み上げることが出来、その一言を繰り返しているだけで負けること はない種類の言葉なのだ」。だから「万能の呪文であるが、何にでも使えるものは結局何の役にも立たないのである」。


 そんなわけで、法案が成立し実行に移されれば、前述したように宇宙開発や感染症など、安全保障やテロ対策と深く関わる研究に特定秘密の“網”がかぶせられ 悪影響が及んでゆく恐れがある。

 宇宙物理学者の池内了博士は「科学や技術は様々な目にさらされて進化する。隠すようになると研究の壁を突き破れないし、研究者の意欲もそがれる」と指摘 する。まさに秘密は研究の足かせであり、医・科学界の技術の進歩を阻むものなのだ。

 「特定秘密保護法」というのは宇宙開発や感染症など安全保障やテロ対策と強く関わるが、そうした研究はやがて不気味な「情報の闇」として官僚機構の奥深く に温存されてしまうおそれがある。

 いま政府の内規で指定されている外交・安全保障の「特別管理秘密」は42万件あるという。これだけの数を首相や閣僚がチェックするというのか。今やなんでも 秘密にされかねず、戦前のように息苦しい社会になるのではないかという不安の声をねじ伏せる事を考えていると思われて仕方がない。


 国会のセンセイ方が懸命になって口角泡を飛ばして怒鳴り合っているのをテレビでみていると、そこにあるのは「特定秘密保護国会」意外のなにものでもないの である。

 ちなみにこの法案が拍手と怒号の裡に参院を通過、成立した時(12月6日深夜)の「全国緊急世論調査」をみると、国会論議は「十分」だったが11%、「不十分」 が76%に達した。賛否については「賛成」24%、「反対」51%となり70%が「運用に不安」であった。

 それはまるで、数の力におごった権力の暴走という絵が火を噴きながら現前を過ってゆくようなものではなかったか―。

 
 
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