2013年10月15日
 
コラム【待合室】は、
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 ★記録ずくめの高温・台風・降水の呪縛を解き放つ
   

 気象庁が11月1日に、「10月の天候」のまとめを発表した。台風の接近数は6個で統計史上最多になったのをはじめ、平均気温や 降水量など自然災害をもたらす禍々しい数字がならび、まさに記録ずくめとなった。

 猛暑日や大雨の頻度は明らかな増加傾向を示している。気温が1度上がると、洪水や土砂災害など、最低でも、年間約11兆円の被害が 生じる、という予測結果も出ている。

 だがさすが、11月ともなると、天候も落ち着きを取り戻し、晴天・爽やかな日々が“災害の10月”を乗り越え、私たちの気持ちを快晴にしてくれている。秀麗・ 富士はその象徴であろうか。だが、その象徴ともなる富士山が首都直下大地震と連動、自然災害のトップに躍り出たらどうなる?あっという間に首都・東京は 壊滅してしまうに違いないのだ。

 「お・も・て・な・し」の東京が勝ち取った2020年東京五輪も羽田、成田は使えず、湾岸の競技場施設も惨たる液状化の危険にさらされ、簡単に吹っ飛んで しまう危機が呪縛となって私たちを締め付けてくるであろう。

 江戸時代の資料で宝永4年の富士山噴火の様子を見てみよう。秋田藩主(当時12歳)のお守り役をしていた岡本元朝の江戸での記録である「岡本元朝日記」が その史料だ。岡本はこの日記に「先日より砂黒色に候」と記し、伊豆大島が噴火して小石が飛び、箱根あたりが、通行止めになったという噂を耳にしたが、それは 幸い事実に反していた。だが、天地が暗くなるほど降ってきた火山灰には恐怖を感じないではおれなかった。

 岡本は噴火5日目にしてようやく火山灰が富士噴火によるものと知ったが、江戸から25里(100キロ)離れた富士山の吹きあげた灰が降ってきたのが、意外だった ようであった。

 火山灰はガラス質。いま富士山が噴火したら、東京では目をまもるためのゴーグルが飛ぶように売れること間違いない、と本気で指摘されてもいる。

 しかし富士山は活火山ではあるが、噴火の兆候はいまのところなく、1707年の宝永地震から300年以上も経っていると安心してはならない。マグマは不気味に たまり続けているのだ。一方、昭和時代の私たちは、まるで富士山の身代わりのような大島噴火に直面してきた。

 この時は単なる噂などではなかった。この噴火による火山性噴出物(テフラ)の堆積によって形成された山林の地層は豪雨によってすさまじい土石流に変貌し、 大島の町を襲ったのである。

 町のまとめによると、火山灰に覆われて地層となった堆積層が牙をむいた結果の瓦礫は11万トン(以下概算)。これは町で処理する燃えるごみ9年分に匹敵する という。土砂は8万トンにも達し、これを除いた木材中心の瓦礫だけをとってみても3万トンにもなるという。

 五輪が決まったからと言って地震が減るわけでもない。五輪の東京招致で論陣を張った人たちは地震の可能性を伝えていなかったが、「お・も・て・な・し」の 期待を裏切ることはできないのである。中村一樹・明大特任教授はこういう。「事前、直前、最中、直後、事後のどこかで、首都直下地震は必ず起こる」。2020年 東京五輪は極めて地震リスクの高い地域での開催を避けることはできないのである。そうした時代を俯瞰しながら、これまた禍々しい数字なのだが、高齢化に伴う 社会保障費が毎年1兆円ペースでふえてゆくという日本社会の実相の呪縛を、解き放っていかねばならないのである。

 
 
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