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極論になるかもしれないが、五輪招致問題がなければ、いま日本は原発の汚染水問題を見て見ぬふりで、押していったかもしれない
と、ふと、あらぬことを思ってしまう。原発関連従事者たちは原子村に安穏と暮らし、原発被害民の身の上など一顧だにしなかった。
偶々「五輪招致」と「原発汚染水漏れ」が同時に大問題として、世界から突き付けられてはじめて汚染水漏れを口にし始めた。この傲慢無礼
な態度には“あいた口がふさがらない”というものであった。安倍首相もここにきて初めて「原発の汚染水問題は世界が注目している」と口に
した。
ここでいきなり自宅の話で恐縮だが、自宅は川崎市の町はずれの小さな山の麓にある。近くに東京都市大(前・武蔵工大)原子力研究所の施設が点在している
のを、引っ越してきた当初はこれといった関心もなかったが、おもえば、こうした大学などの研究用原子炉は全国各地に点在し、川崎には4基あるほか、大阪や
横須賀などにもあったという。
その川崎の研究用原子炉は63年に初めて臨界に達したという。漏水事故が起こったこともあり、89年には運転をやめて廃炉の作業が進められているという。
放射線量の測定結果などを年1回は市に報告しているようである。
こうしたものの管理運営は、いわば小さなものから巨大なものまで、深刻な問題なのである。五輪招致の作戦のテーマのひとつとして扱えるようなものではない
のだ。
ここにきて安倍首相は原発汚染水問題に初めて取り組むことになった。首相は9月2日の連絡会議で汚染水対策への基本方針を取りまとめ、「東電まかせには
せず、今後は国が前面に出て必要な対策を実行してゆく」と表明した。そしてこうも言った。「従来のような場当たり的な事後対応ではなく、根本的な解決に
向け、基本方針をとりまとめた」。その言やよしだが…あまりにも遅すぎたのではないのか。
日本の取り組み方と雲泥の差にあるのがドイツである。ドイツは福島第一原発事故をうけて2022年の原発ゼロに向けた脱原発政策に舵をきって2年がすぎた。
メルケル首相は敢然と真正面から取り組んでいる。そして、9月1日の総選挙向けテレビ討論会で、東電原発の放射能汚染水漏れを念頭に「最近の福島について
の議論をみて(ドイツの)脱原発の決定は正しかったと確信している」と述べた。そんな首相(59歳)の国内での信頼と好感度は高まるばかりである。最近は
国民をやさしく守る「ムッティー(お母さん)」と敬意をこめた親しげな呼び名でよばれるようになっているのは無理からぬ話である。
一方、日本では9月8日未明(日本時間)「東京に五輪招致決定」という“お祭り”に沸きに沸いた。安倍首相は五輪招致演説で、原発の汚染水漏れの「状況は
コントロールされている。決して東京にダメージを与えることを許さない」と強調した。
私に言わせるなら招致という“お祭り”に沸いた大詰めにきて「汚染水」はまるで「亡霊」のようであった。だが、日本は福島の「ふ」の字もなく「東京は安全、
安心」とアピールしたのであった。
「原発汚水」をおしのけた「五輪招致」というセレモニーはこうして夜明けの興奮のうちに終わった。安倍首相はこう言い放った。「誤解は解けた」。奇妙な
自信である。
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