2013年8月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★奇しくも洋の東西で相次いだ“希望の産声”
   

 7月24日、英王室はロイヤル・ベビーをお披露目、幸せの興奮を世界に振りまいた。そして次の日の7月25日はがらりと変わって、 東日本を襲った大震災の巨大津波に耐え抜いた陸前高田松原の奇跡の1本松の種子の育成が人々の関心を呼んだ。

 期せずして相次いだ洋の東西での祝祭…。西の慶事は「ロイヤル・ベビーお披露目」(7月24日夕刊)とうい見出しで、東の慶事は「1本 松の赤ちゃん、産声」(7月25日夕刊)

 という見出しで新聞の紙面をかざった。

 そしていま、「1本松」のベビー(苗)は、その松ぼっくりから種を集めて苗をつくり、茨城県つくば市の住友林業筑波研究所のプロジクトにのせ、土地の人々 の願いを込めながら育てられている。

 研究所は巨大津波に襲われた時、強い枝に残っていた松ぼっくりから採集した種子70個を3月から5月にかけて播いた。そのなかから芽吹いた9個のなかから 新芽が誕生、全長約3〜4センチにそだっている。実を言うと、これは1度失敗、今回は2度目の挑戦であった。将来は陸前高田の地に返すのが目標で、「1本でも おおくの苗を故郷にもどしてやりたい」と愛情をこめてそだてられている。


 この研究所で、中心になって育成をすすめている中村健太郎・主席研究員はもともと、広葉樹を組織培養で増やす技術が専門だ。

 相次ぐ山火事で、森が失われたボルネオ島では、地元のフタバガキ科の木を組織培養で増やす方法を考案し、数万本の植樹につなげた経験をもつ。

 こうした実績があっても、奇跡の1本松から回収できた種は未成熟で、なかなか思うように育ってくれなかったという。「震災直後に集めた種から3本の苗を そだてていたが、いずれも枯れてしまった。しばらくは夜も眠れなかった」という。

 現在は震災の翌年に採った種から芽吹いた9本の苗を慎重に育てている最中だ。「がんばれ、1本松の赤ちゃん!」。


 その高さは先述したように、まだ3センチほど。50〜60センチに成長したら陸前高田に移植するつもりだという。

 「現地ではこれからも復興の取り組みが長く続くことになる。『奇跡の1本松』のベビーたちをその心の支えにしてもらえれば、と思います」と語る。震災が 風化してゆくのを少しでも防ぐことが期待されている。

 1本松は、これから英王室のウイリアム王子のご長男と共にすくすく生育し、東と西の国のそれぞれの事情と背景に温かく包まれて、希望の証し・心の支えと して、共に立派に成育してほしいと願う。

 そのスタートがいままさに、洋の東西で切られたのだ。楽しみである。

 
 
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