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今年の初め、本欄は「独り暮らしの老人は施設を求めて漂流する」といったなかば絶望的とも思われる状況を提示した。日本に在住
する外国人介護労働者は日本の国家試験を過去2年で計417人が受験、合格率は40%に満たなかった。ここでも、日本語による試験が外国
人には負担が大きいのが理由の大半といわれてきた。
ところが、目を台湾に移すと、外国人の住み込み介護労働者20万7千人もの人が働いており、そのうちなんと19万3千人が一般家庭に
住み込み、高齢者ケアの労働に従事しているというのだ。そして、その労働力は東南アジアからの“人的資源”に負っている。内訳はインド
ネシア人が圧倒的に多く15万8千人、フィリピン人2万1千人、ベトナム人1万3千人である。
こうした台湾の状況をみると、「日本では介護人材不足は深刻になるばかりである」といった弱音なんかはいている時ではない。 台湾は1991年、介護を
含む分野で、外国人労働者の合法的な受け入れを始めたという。こうして台湾当局が覚書を結んだインドネシア、フィリピン、ベトナム、タイ、モンゴル、
マレーシアから積極的にケア労働者を受け入れている。
その背景には日本と同様の急速に進む少子高齢社会の問題が介在する。台湾では「高齢者収容の施設は安心できない」「家で介護したい」「家族もそれを望んで
いる」という。が、家族だけでは面倒みきれないのは、日本と同様だ。
では台湾は日本とどこが違うのか。台湾は東南アジアと覚書をかわして東南アの”人的資源“の活用、つまり、自分の家に住み込んでもらって家族の中の高齢者
を面倒見てもらう制度を作り上げていくことに、力を注いでいったのである。
外国人を家で雇えば、給料や保険料などで月2万台湾ドル(約7万円)が必要である。これは大学卒の初任給に近い額に相当し、決して安くはないが、施設に
あずければ、5万台湾ドルもかかる。だが、中流以上の共働きの家庭では、外国人を雇うことが現実的な選択肢になっているようである。
ただ早急に解決しなければならない深刻な問題も介在している。たとえば「介護の仕方に基準はなく」「家庭内では人目につかないだけに、人権侵害が起こること
がある」などなどである。
現に、1年間も休日ゼロ、近くに住む息子や親類の家の掃除をさせられ、個人的な外出は許されず―といったことが問題視され、社会問題にもなっているという。
そして「外国人の介護労働者には法的な保障がない」との指摘もある。
こうした問題を抱えながら、なおも台湾では住み込みで働く外国人介護労働者によって支えられているといっても過言ではないという。
一方、日本では経済連携協定に基づきインドネシアから08年に、フイリピンから09年にそれぞれ看護師・介護福祉士候補者を受け入れている。
ただ、国家試験で日本語による試験が外国人には負担が大きいとされているのは、依然として変わらない。現に、インドネシア保健省人材計画活用局長も「試験
時間や日本語研修期間の延長などで日本政府の配慮に感謝しているが、制度そのものを見直す時期ではないか」と危機感をしめしているという。
こうした日本の状況を“日本語の難解さ”だけでかたずけてしまってもよいのか。ここで立ち止まって、”日本語鎖国“や”独り暮らし老人の漂流“といった事態
に対して、根本的に考え直すことがこの際、必要ではないか。
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