2012年9月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★医療現場を閉ざす“漢字鎖国”を打破しよう
   

 「医療者の言葉次第で、治療の日々は天国にも地獄にもなる」と鎌田実・諏訪中央病院名誉院長はこう説く。「だから言葉は治療 の大切な武器である」。ケア人材の不足を補うため、政府が受け入れを優遇するのは「医療介護」や「情報通信」など専門性をもった外国人 が対象となる。しかし、こうした場合、最大の障害となるのは「日本語」の難しさにあることは、すでに繰り返し指摘されているところだ。

 医療の世界での「ケア人材」不足は日本だけではない。それなのに日本はひとり“平成鎖国”をしていると揶揄される始末。いうなれば“漢字鎖国”が依然として 改善(”開国“)されず、人材受け入れの底上げを図る計画の大きな障害となっているのは確かなのである。 いまやフィリピンやインドネシアから来日する 「外国人介護福祉士」や「看護師」が日本で働き始めている。こうしたケア人材は、入居者の食事、入浴などのケアプラン作成もこなしている。

 一方、受け入れ側の特別老人ホームの入居者も初めは「外国人」にとまどうことがあっても、「食事やトイレの介助は日本人と大差なく、安心して世話して もらえる。高齢者が増えて日本人だけでは、やっていけないご時世ですからねえ」と、“漢字鎖国”の医療現場に積極的な見解を示そうとしている人たちも 見受けられるようになった。最近はもう一歩踏み込んで、こうした漢字鎖国の障害を乗り越えて来日するケア人材の中から「医療通訳士」がそだってくることが のぞまれている。鎌田実氏が説くように、言葉は治療の大切な武器であり、そこで必要なのは「医療通訳」の能力である。

 だが、日本での医療現場ではまだまだ言葉の不安を抱える外国人は多い。それにもかかわらず、まだ医療通訳が専門職として認知され、自活できる環境は乏しく、 専門職として訓練する標準化された体制もほとんどない。アメリカでは州によっては、公的医療保険で医療通訳費が部分的にカバーされるなど、専門職として 医療通訳士が働ける環境が存在するともいう。白熱する米大統領選挙に目を向けても、共和党はオバマ政権の目玉政策だった医療の分野では保険改革(オバマケア) を撤廃すると公言するなど、徹底した財政削減を押し出す。

 そんな中で、大手医療保険会社が「オバマケア」の引き受けで業績をあげている医療保険会社を買収したという。これはどうやら、財界が内々、オバマ再選に 賭けている証拠、と評判になっているようなのである。

 だからといって、いまさらアメリカと比較しても詮ないことである。多様な人種を抱えるがゆえに発達したアメリカの医療通訳体制だが、国際化が進む中で アメリカの体制には学ぶべきものが多いはずである。幕末の“体制鎖国”や平成の“漢字鎖国”の扉をたたいた黒船だったが、今度は「医療通訳」という名の 黒船が太平洋をわたってやってきたのは歴史的必然というべきか。

 医療通訳とは、ないよりはあった方がよい、といった程度のものではなく、日本語の不自由な病人にとっても、治療に携わる外国から来たケア人材にとっても 適正な医療を提供するのに必要不可欠な仕組みであり、まさに治療の大切な武器なのである。

 
 
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