2012年8月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★医療ツーリズムの国際的な広がりのなかで…
   

 医療と観光という、結びつきそうもないものをドッキングすることによる大きな可能性がここ数年注目されている。そうした 医療観光ビジネス(医療ツーリズム)は世界市場1000億ドル(9兆3000億円、2010年現在)といわれている。
 病院は医療施設や機器を完備し、まるで超一流ホテルの雰囲気を出すことを工夫、そうした施設の中で高水準の医療を売り物に外国人を誘う。それだけではない。 たとえば、カンボジアには初のメイド・イン・ジャパンの救命救急センターがお目見得(昨年8月)、医療のかたちは、各方面で大胆な広がりを見せ、まさに 新時代を迎えている、という指摘もある。
 こうした医療ツーリズムは、医療技術が優れ、医療費が安いタイ、インド、シンガポール、マレーシア、さらには整形手術や歯科医療が人気の韓国では、先進国 のみならず新興国の富裕層をも呼び込もうとしている。そしてその受け入れ態勢の整備に一番重要なのは、当然のことながら、優れた医師の確保である。そして こうした事業を円滑に展開する潤滑油の役目を果たすのは、介護、看護などに従事する「ケア人材」である。まさに医療ツーリズムを運用する車の両輪としてケア 人材は優れた医師と共にある。従ってケア人材の労働力を正当に評価しなければ、経済連携協定(EPA)に基づく外国からの研修生受け入れ制度も先細りになり かねない――そうした警鐘が鳴らされる場面が多くなってもいる。
 そんな折も折、東南アジアに進出している中小企業の工場には、かつて日本の工場で技能実習を経験した技術者が現地の工場で中心的な人材として活躍している のが知られるようになった。彼らは整理・整頓・清潔など日本の工場の文化を学び、各種の機器の扱いを学んで帰国してゆく。
 こうした外国人を対象とした実習制度は1993年に始まった。いまや工場の海外進出の水先案内人としてなくてはならない人たちであり、実習制度は思いがけない 効果を挙げている。
 これと似ているのが、インドネシアやフィリピンから来日してくるケア技能の研修生たちだ。日本の国家試験に合格し、日本のケア文化を身につけ、“ケア 技能人材”の中心となってゆく。こうした人材交流の効果を、もっと積極的に評価すべきである。だが現実は違う。先に触れたことがあるが、いうなれば “神の手”を持つといわれているような、練達の医師と経験の浅い新人医師の診療報酬に差がなく、臨床技術が正当に評価されていないのである。
 こうした事実が引き起こすものは、日本のベテラン医師が東南アジアへ単身赴任が可能なだけに、「出張診療」が一挙に拡大してゆく動きが出てきそうである、 ということだ。何しろ東南アジアは週末を使って帰国ができる距離で、単身赴任が何の渋滞もなく可能なのである。こうして恐れられるのは、有能医師の大量流出 であり、ケア人材の“歩どまり”激減である。歪んだ医療の現実が見えてくるのもこの時だ。
 日本医師会が医療の国際化に批判的な意見を提示している。国際化は公的医療保険制度をおびやかし、地域医療をさまたげる恐れがあるとしているが、まさに その通りであろうが、一方では日本は外国人受け入れ制度が厳しすぎ、日本語の習得は難物中の難物で言葉の壁は最後まで立ちはだかっている。
 移民も難民も単純労働者もダメという頑固な「しばり」は少し緩めたほうがいいのではないか。国際化で遅れをとらぬよう早目に手を打つことが肝要なのである。

 
 
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