2012年6月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★偏った体形基準を排し、健康的なものを求めて―
   

 ロンドン五輪が目前にせまってきた。メダル期待の体操競技は5月早々に男女5人づつのメンバーがきまった。目立つたのは「田中 3きょうだい」だった。長男・田中和仁(徳州会)26歳、次男・祐典(コナミ)22歳、そして長女・理恵(日体大研究員)24歳である。

 3きょうだいの話題の中心となったのが理恵選手だ。初優勝を飾り、日本女子を引っ張ることになったそのエレガントな演技の展開。特に床運動で「ピンク パンサーのテーマ」の音楽にのって20代女性の優雅さを存分に発揮した演技を持ち前のさわやかなスマイルの全開でしめ、注目を引いた。

 それを偶々テレビ観戦していて、かって東京五輪(1964年)で金メダリストになった名花チャスラフスカ(チエコ)が21歳のピチピチした肢体を駆使しての演技 が絶品だったのを思い起こしていた。その後、彼女はプラハの市民団体「チェコ・日本友好協会」の名誉会長として活躍しているのはご承知の通りである。

 それから21年後のモントリオール五輪(1976年)では、コマネチ(ルーマニア)があのチャスラフスカとはまるで対照的な少女の機械人形のような細い肢体で 10点満点を連発する演技を披露して喝采を浴びたことも思い出されるのだった。

 その後、たけしの「コマネチ!」という例の“怪演技”の影響などもあって、コマネチ・ブームは続き、体操女子はほっそりした小女が主流となっていった。 今度の五輪に再出場を決めた鶴見虹子(日体大)は14歳の少女時代から日本のトップ選手であり続けてきた。そんな潮流のなかから田中理恵が20代の選手として 頭角をあらわし、ついに五輪選抜のNHK 杯で初優勝を果たし注目を浴びるようになったのである。

 折りも折り、なんというタイミングのよさであろうか、19の国・地域で発行されている世界のファッション誌『ヴォーグ』が「痩せすぎ、若すぎのモデルは誌面 に起用しません」と宣言したのであった。これは各国版の編集長16人の共同声明として5月3日に発表され、7月号(日本版は5月28発行)から適用することになった。

 「読者の女性らが、偏った体形基準を元に、過度なダイエットに陥るなどの弊害を防ぐために」という。つまり摂食障害のようにみえるモデルや16歳未満の モデルなどは採用しないというのだ。言われているように、最近の若い女性はあの食料難時代の終戦直後にくらべても細めなのだ。

 細めもさることながら太めもいただけない。これまた絶好のタイミングというべきか『ヴォーグ』のおひざもと・ニューヨークで、市長が5月30日にLサイズ 飲料水の販売を規制する方針をあきらかにしたのである。言うまでもなく肥満対策の一環だ。大きな紙コップの飲料を痛飲しながら、巨大ハンバーグを頬張る… 彼らは一様に堂々たる(!?)肥満体なのである。

 このように、枯れ木のような極細体も、反対に二重あごや三段ばらも共に摂食障害にみえ、共に万病の元でもあるのだ。

 本欄はこうしたことを何度か取り上げてきた。たとえば4年前の2009年8,10月に「やせ」と「肥満」の間で健康がむしばまれていく現実を見据え、極端な 「やせ」願望や太りすぎは人生を粗末にするだけであることを自覚すべきだと訴えた。そして翌年(2010年)は2、3、4月とたて続けに極端なやせ願望に 「待った!」をかける動きを取り上げた。

 ―が、こうしたことは、これまでどこ吹く風であつた。それがいまや「女性の美しいボディーの理想イメージを、より健康的なものにする」(『ヴォ―グ』誌) という意識改革がやっとひとつの大きな潮流になろうとしているのが、感じられるようになった。喜ばしい限りである。

 
 
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