2012年5月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
このコラムに関するご意見、ご感想をお寄せください。
 
 
 
 ★受診も薬購入も買い物ついでに…の感覚で
   

 ゴールデンウイーク初日の新聞は「混雑本番」と題した写真を一斉に掲載した。そんななかに4月13日に開店した国内最大級の 「三井アウトレットパーク木更津」の広大な駐車場にぎっしり詰まった車を俯瞰した航空写真があった。買い物客がどっと押し寄せる雰囲気 が一挙に伝わってくる。
 こうした大規模ショッピングセンターは人々を一挙に吸収しようと、いろんな工夫をしている。なかでも、多くの診療科目を備えた診療所を完備しょうとする 動きが注目されるようになった。医療を受ける側の人たちには「買い物ついでに…」「子供を遊ばせる施設もあることだし―」と受診の待ち時間の割り振りがかなり自由にできる 利便さがある。
 つい先日、東京高裁が薬のネット販売を認める判決をだしたが、それでもなお安全性確保のための「対面販売」は重視されている。だが、受診と薬購入と買い物が 一度に済むならこれも解決できるというものだ。
 ショッピングセンターにはいると、商品陳列棚の並ぶ向こうに医院の入り口がみえ、薬局があり…といった有機的な店舗の配分システムは実に10年来の課題で あり、広大な売り場面積をもつスーパーにとっては常識となっている。売り場面積が広ければ広いほど付帯施設も大きくできる。こうして病院と商業施設の 共同開発事業が盛んになってくる。
 25日(4月)、千葉県船橋市に全面オープンした商業施設「イオンモール船橋」の特徴は総合クリニックを併設していることである。内科、整形外科、歯科など 総合病院並みの診療科目をそろえている。
 これより前、イオンは03年に東京都江東区の店に6診療科を導入、セブン&アイ・ホールデングスも05年には千葉県浦安市の店に4診療科を置いた。
 名古屋ではユニーが10年に医療・介護施設と連携した店を開き、病院と商業施設との共同開発に乗り出した。昨年6月には大阪市西区に開業したショッピング センター「フォレオ大阪ドームシティ」の目の前には病院がある。この開発を担った大和ハウス工業は「病院の待ち時間や行き帰りに、買い物に寄る人は多い」と 手ごたえを語っている。

 こうした大規模買い物施設と医療施設の共同開発事業には、なによりも医療の「ケア人材」の確保が前提になる。ここで注目されるのが、東南アから来日する 人たちだ。こうしたケア人材の卵たちは経済連携協定(EPA)のルールにもとづいて看護師や介護福祉士の試験に挑戦している。問題は日本語の習得であろう。 「腹臥位(ふくがい)ってわかる?」「うつぶせ」「正解!」といったやりとりの情景を垣間見ただけでも、日本語の専門用語は殊更に難しい漢字をあてている ようで、厄介だ。国家間の人事問題は思い通りにいかない面もあるが、日本の病院はできるだけ長く日本で働いてほしいという思いがある。日本はいま日本語を 習得する費用を全額負担することを決めるなど、新ルールをつくって受け入れ体制の充実をめざしている。ケア人材が充実すればショッピングセンターにもう一つ の効用を私たちは期待することができるだろう。
 高齢者だけでなく、共稼ぎの世帯や子育てまっ盛り世帯など買い物に不便を感じている人たち向けにコンビニやファミリーマートは「宅配」サービスを強化 している。こうした事業の一端として期待されるのが「往診」だ。買い物ついでに「受診」も―が現実になったいま、「宅配」ついでに医療の宅配ともいえる 「往診」も…が夢ではなくなったのではないか。大いに期待したいところである。

 
 
今月のコラム【待合室】へ戻る

 



医療新報MENUへ戻る