2012年4月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★震災後の「絆」こそ復興の真の旗印である
   

≪はや廃(すた)る「絆」はやはり流行語≫


 こんな川柳に接して、納得と反発が半々だったが、そんな思いの中で筆者はセンバツ野球大会の開会式での選手宣誓に思いを はせるのであつた。

 昨年震災の年に選手宣誓をしたのは、創志学園(岡山)の野山主将だった。彼は阪神淡路震災の年に生まれているが、元気 いっぱいこう宣誓した。「がんばろう、日本。生かされているいのちに感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーします」。そして 今年は被災地の石巻から出場(21世紀枠)の石巻工業(宮城)阿部主将がこう宣誓した。

 「苦難を乗り越えることができれば、その先に必ず大きな幸せが待っていると信じています。だからこそ日本中に届けます。 感動、勇気、そして笑顔を。見せましょう、日本の底力、絆を」。

 昨年は「生かされたいのち」に感謝し、今年は復興へ「日本の底力、絆を見せましょうと呼びかけ、被災地の熱い思いを吐露 した。それに応じるかのように、がれきの「広域処理」が動き始めた。岩手、宮城両県のがれきのうち、約400万トンを全国の 自治体で受け入れる計画だ。困ったときはお互いさまである。これこそ「日本の絆」ということにほかならない。

 これまで「広域処理」に名乗り出たのは東京、山形、青森の3都県のほか群馬、茨城、千葉市。それに新潟県新潟市、長岡、 三条、柏崎、新発田の5市。さらに被災地から離れた島田(静岡)や関西広域連合(大阪、兵庫、京都、鳥取など7府県)でも論議が 具体化してきた。

 現在、処理を終えたのは被災地全体の6〜7%にすぎない。被災3県のうち、福島県のがれきは、原発事故をまともに受けた だけに、難物だ。208万トンを抱えているが、まだ5%しか処理が進んでいない。特に原発の在る浜通り地区のがれきや県内の製材所 で丸太を材木に加工する時に出る樹皮は放射能汚染度が高く、これまでほとんど処理されてこなかった。

 だが、絶望の放射能荒野にかすかながら一筋の光明が差し込むようになった。白河市(福島)のファーストエスコが運営する バイオマス発電所が放射能物質による汚染濃度の高いがれきや樹皮ごみの受け入れに、震災2年目にはいった3日目の3月13日から 取り組みはじめたのである(日経3月13日付)。このバイオマス発電所の出力は11500kw。毎日38トン程度の建築廃材などを 燃料に使うのである。焼却しても、大気に放射性物質はほとんど放出しないとしている。


 一方、がれきを被災地でそのまま埋め立てて、土地のかさ上げや防潮林の盛り土に使うなど、燃やす量を減らす策にも陽が あたろうとしている。

 未曾有の災害に襲われて愕然としている時、勇気を与えられたのは、先にもふれたように昨年の選手宣誓「いのちへの感謝」 という熱い言葉だった。まさに日本はこの時、復興の途に就いたのであった。

 あれから1年。改めて被災地に立つと、巨大ながれきの山がせまってくる。そして煉獄の放射能汚染は緑のふるさとを無人の 荒野にしてしまった。そこを風評被害という悪魔のささやきが吹きぬけてゆく。

 だが、そんな私たちを今年の高校球児の選手宣誓は力強く「見せましょう、日本の底力、絆を」と呼びかけ「感動と勇気と 笑顔」を日本中に届けてくれた。震災復興のカギは絆であることを、そして絆とはお互いが相手を信じあうところから始まる ことを吐露したのだった。


 「絆」とは、単なる流行語ではないことを、改めて再確認したいと思う。

 
 
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