2012年2月15日
 
コラム【待合室】は、
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 ★「原発」に連動した現代版「打ち出の小槌」の魔力
   

地震、津波、原発事故、風評被害…史上例を見ない災害を受けた福島県の要望の声には、震災前までは県発展の切り札として、 「原発」の2文字が踊り、震災後は事あるごとに「補償」の2文字が口にされてきた。そうしたことを受けて、4月末には早くも、朝日新聞 投書欄「声」(4月25日付)にこんな指摘が掲載された。

 福島県は原子力発電稼働の県税として「核燃料税」を課し、昨年は44億円だった。さらに原発誘致で県や当該市町村は、国から「特別交付金」を配分され、 固定資産税、住民税などの地方税も入ってきていた。こうした事実を受けて、投書者はこう言う。「…それなのに知事は事あるごとに補償を口にして訴えるが、 これら多額の原発関連収入が何に使われてきたのか、全く聞こえてこないのである」と。

 しかし一方で、もう一人の投書者は、多くの人が痛烈な被害をこうむっているにもかかわらず、情報公開や補償に関して、東電や政府のスピード感のない不十分 な対応に、被災地の人々と共に苛立ちと怒りを表す。

 そしてこれは、今年に入って早々のことであるが、「世界中の原子力産業は補助金漬けである」とダボス会議(スイス・1月27日)に参加した米コロンビア大学 のジョセフ・スティグリッツ教授は鋭く指摘した。そしてこの会議で国際NGO(非政府組織)が発表した「世界の無責任企業」ランキングで東京電力がなんと世界 第2位にランクされた。

 原発事故をめぐる東電の情報公表は「遅くて・ウソがあり・隠ぺいされ・改ざんの体質がある…」と教授は述べる。

 ちなみに1位の企業は、南米のアマゾン川で4万人を補償なしで立ち退きさせようとしたダム開発会社であったという。こうした局面では民衆の「補償」という 言葉は大いに連発されてしかるべきであろう。

 福島県や当該市町村はそうした局面にもまれながら、確かに事あるごとに、「補償」という言葉を口にしてきたかも知れない。原発誘致、稼働関連の収入は、 すべて補償という形にかわって、まるで打ち出の小槌から飛び出てくるものに期待せざるをえないかのようだ。

 この打ち出の小槌が新年度の県予算案に反映しているのをあげれば、たとえばこうだ。福島県の当初予算案1兆5千億円は、人口約2.5〜3倍の福岡県や千葉県 と同規模にあたる。そしてこのうち震災と原発事故の対応に7000億円余をあてるという異例の予算案になっている。そんなさ中というべきか、福島県は18歳以下の 県民の医療費を無料化することを「補償」の一環として要望してきた。1月28日、その結論が出た。

 平野復興相は県庁で知事と会談し、無料化の断念が政府の方針であることを伝えた。知事は「極めて残念。県として前向きに検討したい」と述べ、県単独で 無料化を導入する方針を示した。これに必要な経費は年間100億円近くが見積もられるという。

 これより先、野田首相は県の要請を受け、無料化の検討を約束していたが、「他県との公平性を保つのが難しい」と実施を正式に断念、平野復興相も「医療制度 全体の根幹に関わる問題で困難というのが我々の結論である」と説明した。そして首相は1月30日の衆院代表質問で、この問題に関連して「福島の子どもの健康に 最大限の支援をしたい」と、無料化以外の方策に力を入れることを強調した。

 しかし知事は無料化を単独でも実現したい考えを変えず、その事業費は12年度の補正予算で組み、秋の開始を目指すという。これこそ現代版「打ち出の小槌」の 魔力どころか、堂々たる補償の出番というべきであろうか。

 
 
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