2011年10月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★放射能風評被害を乗り越えるフラダンスの昂揚感
   

 拡大鏡、万歩計つきのケイタイを持ち歩いている後期高齢者の筆者だが、最近のケイタイ機能は文字通り日進月歩である。という のも、スマフォ(スマートフォン)に放射線量の計測器を“内臓”したものが開発されたというのだ。計測するだけでなく、全地球測位 システム(GPS)機能を利用し、計測値や時間を地図上に記録することも可能だという。

 これは、原発事故以来、日本人の誰もが、放射線量に関心をもつようになっているが、そうした状況の反映の一端でもあろう。こうした放射能へのナーバスさの 中で、残念ながら原発事故に、まるで“恥の上塗り”をするような事故が甲府市立病院で発覚した。子どもが放射性検査薬で過剰被曝していたのだ。あれから 1ヶ月以上も経っているのに、実態の解明は杳として進まず、保護者の不安と不信感はつのるばかりである。

 一方、日本はCT(]線を利用したコンピュータ断層撮影)やPET(陽電子放射断層撮影)といったものを利用する「核医学検査」とか「放射線医学」と いわれるものによる医療被曝は多いという。その一因はCT撮影機の数の多さであるといわれているが、OECD(経済協力開発機構)の報告では、人口100万人 当たりの台数は日本が約97台(08年)で加盟国28カ国中、群を抜いているという。原発事故以後被曝を懸念してそうした放射線検査や医療を嫌う患者がふえている そうだ。だからであろうか、これまた私事になって恐縮だが、筆者はここ数年来CT検査を年に2回受け、「間質性肺炎」の疑いで診察を受けてきたが(念のため 経過は良好)、前回までの検査は事務的だったが、原発事故以後初めての今回(9月)は「ご気分は?」「大丈夫ですか?」と前回までと同じ人なのにこんな言葉 をかけてくるのにはびっくりした。

 放射線量への根強い不安―いまや原発からの距離は関係ない。250キロ離れた横浜でもストロンチウム90が検出された(10月12日、朝日新聞デジタル版)。 原発から50キロ離れた「ハワイアンズの館内放射能量は東京なみ」(斎藤・常磐興産社長)なのに、子どもずれのファミリー層は敏感だ。福島県というだけで 敬遠されてしまうこともある。

 会津のように離れていても、あの「白虎隊」や「野口英世」は放射能風評被害を前にしては、為す術もない始末。県外からの修学旅行は9割減、野口英世 記念館の来館者数は62%減なのだ。

 だからといって、風評被害を嘆いてばかりいても何の解決にもならない。ここで立ち上がったのが、いま触れたあのいわきのフラダンス軍団を擁する 「スパリゾートハワイアンズ」であった。その運営会社が「私達が事業をやめたら、地域は崩壊する」「地域住民、市、県からも、地域を引っ張っていって欲しい」 という声に力強く応じた。

 彼らはまず何をしたか。震災以来、休業していたこれまでの半年、全国の福島支援をしてくれる人たちに直接足を運び、協力をお願いするキャラバンを展開して きたのである。

 そして満を持し、この10月1日に地元で営業を再開したのであった。踊り子たちはいわき市主催・復興祭の晴れ舞台に立ち、「本日、いわきに帰ってきました!」 と挨拶し,はじけた。地元住民も一挙に湧いた。その勢いはまるで熱湯を噴き出す“スパ”のようであった。

風評被害など、ふりかかってくる困難に立ち向かうには“足で稼ぐ”ことだ。いまダンサーたちを率いる人たちは若い時代に徹底的にたたきこまれてきたであろう。 この独特の社風にそだてられたダンサーたちもまた意気軒高だ。あの放射能量計測など、あっという間に取り込んでしまうスマフォの専用アプリ(ソフト)のよう に柔軟で敏感で常に人の心を呼び込んでゆく…。

 期待したい。

 
 
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