2011年9月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★攻めの姿勢貫く医療ビジネスは復興のエース
   

 東日本大震災から、早いもので、半年が経った。かねて海外のお金持ち患者を日本に受け入れる「医療ツーリズム」が注目されて きたが、これが大震災後は原発事故そのものと、その風評被害などもあって、なんとなく冷え込んでいた。

 総合商社はこうした状況をいわば逆手にとって、海外での医療ビジネス展開に相次いで進出をはじめた。海外にあえて打って出ることによって商機を見出そうと しているのである。

 三井物産は病院業務に電子カルテなどの先端技術や給食、病院の支払いシステムを持ち込み、住友商事は生活習慣病に狙いを定め、中国を中心にアジアでの 医薬品販売を展開する。一方、豊田通商は、来年にも中国で心臓病や脳卒中などの予兆を診断できる最新の健康診断システムの売り込みを始めるという。このほど 中国で開催した展示会の動脈硬化測定器に多くの人の関心を呼び、富裕層が自分の健康管理に熱心になり始めている気配を捉え、日本が先行する事業展開としての 「健診」は売れると踏んでいる。

 そしてすでに、いまあげた各商社は、医療データの集積情報にも経済的価値があることを捉え、医療ビジネス展開のなかで、「手続きの煩わしさ、個人情報の 流出リストを超える利点を提供できた会社が大きな商機を手にする」との指摘(KDDI総研)がされているように、医療データの経済的価値に気付いた企業は 世界展開を視野にこぞって動き始めているのである。


 以上は国外に目を向けた事業展開だが、国内に目を向ければ、医療ビジネスは「輸出」という新しい顔をもつだけでなく、震災復興の大きな柱となる産業として 復興の中心に据えることが可能な、これまた「新しい顔」をもっているのだ。

 現に、福島県に「医療特区」を設け、新たな地域産業の大きな柱とする計画が検討されている。その内容は第一に薬事法の規制の優遇をうけ、高い技術を持つ 中小企業などが医療産業に参入しやすいようにする。第二に税軽減により医療機器の製造・販売への新規参入をうながす。第三には、症例を集めたデータセンター を福島県立医大に設け、医薬品や医療機器のメーカー、研究者を誘致する、などなどである。


 東日本大震災で大きな被害をうけた岩手、宮城、福島の3県沿岸部で入院や手術などの診療を制限している病院が半年経った今でも3割あるといわれている。 復旧は進むが元の水準の医療を取り戻すにはなお時間がかかりそうである。こうした医療の再整備は医療ビジネスという大きな観点から被災地域を「復興特区」 として、地域の活性化につなげていくのが最も賢明な方策であろう。

 日本経済の先行きには、円高や欧米市場の混乱、電力の供給懸念も影をおとすが、震災をどう克服するか。医療ビジネスもまたその底力を試されることになろう。

 
 
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