2011年6月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★医療経営にもボーダレスの時代がやってきた
   

 国民皆保険が今年50周年を迎えた。これに、どの医療機関でも受診出来るフリーアクセスを 加えた2本柱による日本の医療システムは、世界のトップ水準をゆくものである。
 ところが、最近は自治体病院の破綻、基幹病院の産婦人科や小児科の閉鎖など、世界に誇る医療システムに不具合が生じて きた。医療経営が赤字ショックに見舞われているのである。こうした事態を避け、克服するためには病院自ら経営の効率化に 努力しなければならない。そうでなければ、医療の質を維持し、質の高い医療サービスを提供することなど、とても出来ない のである。

 医療経営にはこれまでにない工夫が欲しい。その一つが、他の事業と連携しながらボーダーレスの事業形態を推進する医療 ツーリズムの新しい開拓であろう。
 これまでにも医療ツーリズムの動きはあった。前回の本欄ではそうした動きの一端を「平成の開国」という観点から捉えて みた。しかしつい先日の新聞はアジアの大手医療グループが日本進出を図っているというのを大きなニュースとして取り上げて いた(日経、6月3日付け)。
 報じられたのはシンガポールの医療機関ラッフルズ・メディカル・グループ(RMG)であり、大阪市内に英語の話せる医師や スタッフが常駐するクリニックを開設する方向で阪神電鉄と交渉しているという。ここでRMGが注目されているのは、「医療」と 「ツーリズム」を別個の経営体として統合するのではなく、両者をボーダーレス化することによって、医療とツーリズムが 渾然一体となった商品化をめざし、経営の効率化を促進しようとするところにある。
 このような、ボーダーレス化経営による日本進出を図る動きを迎え撃つ日本は、残念ながら原発事故がある程度まで収束しな ければ手も足も出ないのが現状である。それでもJTB、セコム、京浜急行、南海電鉄などが医療ツーリズム関連事業に本腰を入れ ようとしている。

 一方、こうした情勢のなかで、本格的な高齢化社会の到来ということもあって、質の高い医療サービスを提供しようとすれば、 病院経営は非常に厳しくなり赤字の病院が増え、医療の空白をうんでゆく。その根底にあるのは看護や介護といったいわゆる 「ケア人材」の決定的な不足である。
 これを解決するには、EPA(経済連携協定)によるインドネシアやフィリピンからの看護師研修の受け入れに力がいれら れるべきであろう。「平成の開国」とはそのことであり、これが医療をボーダーレス化する突破口の一つにもなっていくのだ。
 「ケア人材」の最大の障害は「日本語」の難しさにあることは、すでに指摘されているところだが、最近は病院が語学研修 のサポート・チームを組んで応援するところも生まれてきた。
 戸惑いはこうした「日本語」だけではなく「仕事」の内容にもあるという。食事、排泄、入浴、移動の介助など母国では家族 の役割なのに、日本では介護士や看護師の業務に含まれる。そのことを理解するまでは辛い事もあったという。が、一方で、 母国では看護師は医師の指示がなければ動けないが、日本では一人一人が誇りを持って働いている。「そこがすてきです」と いい、「将来は日本の進んだ医療を母国に伝えたい」という志をもっている。
 このような「ケア人材」は医療事業ボーダーレス化の原動力の一端を担って輝き、サービス業としての医療を流動化し、 硬直化を防いでいく。これこそが、医療の効率経営なのである。

 
 
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