2011年1月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★卯年を迎え、医療の世界も飛躍の年としたい
   

 卯年―うさぎ年である。“卯は跳ねる”と、証券界では古くから卯年は株価上昇の年とされてきた。「大発会」を迎えた1月4日 の東証市場は前年比170円高を記録する幕開けとなった。

 医療界も卯年にちなんで飛躍の年にしたい、と関係者は誰しも思う。医療ビジネスしかり、医療の体制・整備しかり、私たちひとりひとりの健康維持・改善、 そして高齢化への対応しかり、である。

 医療ビジネスの分野に目をやれば、何といってもメディカル・ツーリズムへの注目度が高い。今年はアジアの富裕層をターゲットにしぼって医療ビザが新設される。 旅行業界が変革期を迎えようとしているのと表裏一体の展開となるのは確実だ。

 新設される医療滞在ビザは、有効期間を従来の3ヶ月から最大3年に延長、同伴者も治療を受ける人と同じ条件のビザ発給を認めるとしている。これに対応する 「医療通訳」システムをめぐるセミナーが開かれ、国際観光医療学会も設置された。一方で、厚労省も外国人が日本で医療を受け易くなる環境整備の検討に着手 した。

 こうした医療ビジネスに力を注ぐことには賛成だが、これが行き過ぎると、すべてが、いわば“ゼニ・カネ”の問題にとってかわられてしまう懼れがある。

 その一例として、昨年はたばこの値上げが健康との関連でも検討されてきたが、今年はたばこに替わって酒(アルコール)がテーマになってきそうな情況を あげることが出来るのではないか。

 なるほどアルコール飲料の価格や酒税と健康障害との関係は科学的に立証されるデータが整っており(坪野吉孝「やさしい医学リポート」・朝日新聞連載など)、 たばこ税の増税が健康改善の見地からも検討されたのと同様に、酒税をめぐっても検討の余地はあるかもしれない。だが、やみくもに増税へジャンプしても、 それが直ちに事を成就することにはならないのだ。

 今年の主役・ウサギはそうしたことを身を以って教えてくれる。イソップ物語(「イソップ寓話集」セーラー出版)の第1話の「ウサギとカメ」がそれだ。


 足の速いウサギにカメが競走を申し込む。スピードに自信のあるウサギは競走の途中道端でひと眠り。しかしカメは歩みをとめず、眠るウサギを追い越す。 カメはやすむ事無く進む。そしてそのままゴール!


 この物語は「つかわぬ才能より、たゆまぬ努力」という言葉でしめくくられている。

 なまじっか瞬発エネルギーの才能をハナにかけていると、目標への足どりはいたずらにカラ回りするだけである。ウサギの失敗は、たゆまぬ努力を、 つまり「継続は力なり」を教えている。

 これと関連して、日本古代の史書・古事記(「日本古典文学体系1」岩波書店)にもおなじみの説話「因幡(いなば・鳥取南部)の白兎」が記録されている。


 ウサギは沖ノ島からこの気多の御崎(因幡国気多郡)に渡りたいが手段をもたなかったが考えたすえ、ワニを欺いて海上に並ばせて、その上を走って渡った。 渡り終えた時、ウサギはつい口をすべらせ、ワニに欺いた事を知られ、皮をはがれてしまう。そこを大国主神(おおくにぬしのみこと)にすくわれる…。それは まさに「兎兵法(うさぎへいほう)」そのものである。辞書に「つまらぬ計略をして、かえって失敗すること、また実際の役にたたないことのたとえ」とある。

 卯年の始めにあたって、ウサギは私たちにこうした大事な心得えを身を以って教えているというわけである。医療の世界もウサギの寓話に即してカラ回りする ことなく実のある飛躍を実現する年でありたいと思う。

 
 
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