2010年11月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★「卒煙塾」の塾生に心からのエールを送る
   

 たばこ値上げで、ある人は買いだめに走り、またある人は禁煙外来のドアをたたくといった騒ぎがあったのはついこの間のこと であったが、喫煙者の多くは再び愛煙家に戻ってしまった。

 そんな風景にタイミングを合わせたように、10月26日、財務省は政府税制調査会後、2011年度税制改正ではたばこ税を見直す方針を明らかにした。10月に1本 あたり3.5円の増税を実施したばかりなのだから、当面、増税の影響を見極める必要があるということこなのであろう。

 ところが一方、「健康」を旗印とする厚労省は11年度増税(値上げ)を要望しているという。折りも折り「喫煙習慣は骨粗しょう症のリスクを高める」という 学会報告があった。そして骨粗しょう症の主な危険因子には体質、カルシウム不足、極端なダイエットなどと共に喫煙習慣があげられるというものだった。


 喫煙を巡るもう一つの風景がある。それは「受動喫煙」という曲者(くせもの)だ。禁煙法を導入すれば、公共の空間での喫煙は減少するかもしれないが、 家庭での喫煙は増えるのではないかという懸念が、禁煙政策の展開に二の足を踏ませる要因となってきた。

 これに対しては「そんなことはない」という情報が紹介されている(坪野吉孝・東北大教授「やさしい医学リポート」朝日新聞連載・10月18日付)。それに よると、スコットランドでは禁煙法が2003年3月に施行されたが、15歳未満の子どもの喘息による入院の推移を調べた結果、施行後は18・2%の減少がみられたと いうのだ。

 同国は禁煙法施行後、家庭での喫煙も減少しているという。そればかりでなく、心筋梗塞や小児喘息も減少していることが、判明したのである。スコットランドは まさに「禁煙法で喘息を減少させた国」というわけだ。

 それに比べ日本では、この2月に公共空間での全面禁煙を促す厚労省の「局長通達」が出されたが罰則のないゆるいものであり、4月に施行された「受動喫煙防止 条例」では「職場」は対象外となり、これまたゆるい条例であった。これに対して神奈川県は国の法整備が進まなければ条例見直しの際に職場を対象とする 可能性を示すなど積極的だ。この積極さのなかから、「かながわ卒煙塾」というユニークな塾を生んだ。これは県などが出費する「かながわ健康財団」の事業の 一つで卒煙の方法などが無料で学べる事業である。「禁煙」でなく「卒煙」というネーミングがいい。

 5月末から6月中旬までに県内51か所でひらかれたチャレンジ講座を計247人が受講、うち159人が卒煙宣言、10月27日現在45%の72人が卒煙に成功したという。 そして台風14号来襲の最中の10月30日に、パシフィコ横浜で塾の卒煙式が行なわれたのであった。卒煙式には42人の卒煙成功者とその家族や卒煙挑戦中の人など 計90人が集まり、塾長である俳優の舘ひろしさんが「卒煙証」を手渡し、ねぎらいの言葉をかけ、ポケットマネーで金一封を渡す場面もあったという。松沢知事は 「半分以上いけばいいと思っていたが、まあまあの出来」と総括、「再チャレンジも重要、来年も継続したい」と抱負を語った。


 いい“金づる(財源)”となるたばこの野放し風景が瀰漫(びまん)しているだけに、一人でも多くの塾生たちが留年や中途退学などせずに、卒煙することを 願ってやまない。

 
 
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