2010年10月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★たばこを野放し状態にしておく時代は終わった!
   

 10月1日からたばこ値上げ。4年前、7年前、12年前…と値上げされてきたが、今回は大幅値上げとなった。喫煙家はどうした か?「値上げを前にカートン買いだ!」と走ったか、「これを機にもうやめた!」と心に決めたか。

 禁煙補助薬を扱う会社が値上げを前に意識調査をしたのがある。全国の喫煙者9400人のなかで「禁煙に挑戦する」と答えた人は53%。だが、この中で「自信が 無い…」が48%もあった。中々止められないのである。


 これは新聞の「読者の声」欄に登場した79歳男性のニコチン依存症を克服した体験である。この人はこれまで10回禁煙に挑戦、最長10日間だった。この時、 “悪友”が言った。「10日も禁煙したとはたいしたもんだ。もういいだろう」と差し出された1本につい手を出して腰砕けになってしまったのである。

 ところが、ある時この人は突然、禁煙を成功させた。テレビを見ていたとき、エックス線を通して見た血管がたばこを吸った途端にぎゅっと縮むのだ。そして そこには、ヤニがこびりついた病んだ肺が写されていた。その人は「この現実に驚き、たばこをやめた」と言うのである。禁煙11回目でみごと成功した。この エピソードは、たばこは単なる嗜好品ではなく依存症を引き起こす“薬物”の一種なのだ、ということを警告してもいた。


 米国ではオバマ政権が、たばこを食品医薬品局(FDA)の監督下におくことを実現させた。そして喫煙率39%で世界第3位の喫煙大国ロシアは政府が2015年 までに喫煙率を25%に減らすことを目標に禁煙キャンペーンを展開している。プーチン首相は閣議の席で、「閣僚にはたばこをやめる義務がある」と“ムチ”を いれたという。

 一方、日本はといえば、喫煙率は男性で約4割と高く、特に女性は1割だが、若い女性に増えているのが問題となっている。日本もたばこ大国を抜け出す政策を すすめるべきである。が、米国のように厳しい規制に乗り出すことも無く、ロシアのような熱いキャンペーンの展開もない状態なのである。

 せめて日本も先述したように、たばこは嗜好品でないことを確認することによって、たとえば、朝日新聞の「私の視点」(10月8日)欄で岡本光樹氏(弁護士) が提言したように、たばこ規制にもすくなくとも薬事法を適用、野放しにしないようにしたいものである。

 禁煙治療はようやく06年から公的医療保険の適用対象となった。ニコチン依存症と診断されるなどの条件を満たせば少ない負担で治療がうけられる。

 だが、問題は病気の危険は、たばこを吸っている本人だけでなく家族にも不幸をもたらすということだ。本人の喫煙が原因で肺がんなどの病気で亡くなる人は 年に13万人以上だが、受動喫煙の被害は厚労省の調べによれば因果関係がはっきりしている肺がんと虚血性心疾患だけでも毎年6800人が亡くなっているという。 この数字は昨年5000人をきった交通事故死をはるかに上回る深刻な数字である。


 あの数字、この数字を突きつけられると、たばこを「やめなければ…」と思っていた人は今度の値上げに背中を押されて禁煙外来のドアをたたく。そんな 喫煙者は「国民の健康のためにも」という旗印を掲げた値上げには一理あるということをようやく理解するようになったのではないか。政府もまた、たばこを “金づる”(財源)としかみていなかったものから、「健康のためにも」へ舵を切れたと言えるだろう。日本も、このへんで、野放しの時代を終らせたいもので ある。

 
 
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