2010年6月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★「フルコースの人間ドック」が人気ツアーに!
   

 先月(5月)末、東京・世田谷でおもしろい講演があった。講師は「現代中国風刺詩事情」(小学館)の著者・邱奎福氏である。 この本は中国の民衆が口から口に伝えている戯れ謡(ざれうた)を集めたもので、題材はこの本からのものである。戯れ謡とは韻をふんだ、 ユーモアと批評精神に富む風刺詩。どれもが、これこそ現代中国人のホンネともいうもので、こんな謡も掲載されている。

       要手術 送祝儀 不送銭 不開刀

       救急車一響 一頭豚白養

 日本語に意訳すると、「手術をしてもらいたければ“袖の下”を送ることだ。お金を医者にあげなければ、手術なんかしてくれないのだ。救急車をよんだら 大変だ。サイレンが鳴るたびに、貴重な財産であるわが家の豚が1頭づつ飛んでいってしまうのだ!」。

 医療の歪みへの痛烈な一撃である。こうした医療の現状がかもし出す医療不信が富裕層の目を日本医療に向けさせている。


 折りしも来月(7月)からは懸案の個人観光ビザ(査証)の発給要件が、緩和される。これまで富裕層に限定されていたものが中間層にまで広がり、 発給地も北京、上海などに限っていたのを撤廃する。中国からの観光客は加速するであろう。

 中国の観光客にとって、日本の魅力は、近くて費用が安く、サービスの質が高く、観光資源も多彩、というところにあるようだ。中国旅行専門サイトには こんな書き込みがみられる。「便器がお尻を洗い、ちり紙は無尽蔵、車は必ず歩行者優先、割り込みがなく、人々は礼儀正しく、親しみやすい」 (朝日新聞から)。

 こうした風潮をバックに中国からの「検診ツアー」を企画している北京の旅行会社はすでに100人近くを日本に送り込んでいるという。彼らは一流ホテルに 泊まり中国人通訳が付き添う「観光+人間ドック」に10万〜14万元(130〜180万円)もの大金をおしげもなく使っていくのである。

 「日本のがん治療は世界のトップクラスだ」「日本の検査は精密で医師の説明も丁寧だ」と、検診ツアーを受けた人々は満足気なのである。

 邱氏が紹介する風刺のきいた戯れ謡のように、診療費目当てに理不尽な費用をとられるなど不信感が強いだけに、日本医療の人気は高まるばかりのようだ。


 一方、迎え入れる日本側の旅行関係企業もこれを黙ってみているわけではなく、観光客を本格的に囲い込む営業を展開しているようだ。たとえば、 箱根のホテル小涌園の藤田観光では「中国営業部」を設け、先月から北京と上海に常駐スタッフを配置している。

 こうした多様化し、個性化していく日中の“経済交流”は医療観光ビジネスを刺激してやまない。それは他の国の追随を許さぬものになっている。 先月の本欄でも触れたように、医療のかたちは新時代を迎えようとしている。来月からのビザ緩和はそのノロシであることは確実だ。

 
 
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