2010年2月15日
 
コラム【待合室】は、
病院の待合室という特殊な空間に身を置いて「医療」を眺めています。
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 ★若い女性の「やせ願望」にやっと「待った」の声あがる
   
 「春一番も吹いて、若い女性のコートの下からも春の息吹きが溢れてきた。すかさずエステのちらしが郵便受けをいっぱいにする。「1か月 集中・めざせマイナス7kg!」「スピード痩身公開!」。「Before」と[After]の写真を並べて「やせましょう」「やせました」。 若い女性は乗せ られていく。そして極細のモデルやタレントがテレビに雑誌に華やかにクローズアップされていくのを見て、「あたしの体に はどうしてこんなに肉 がついているのだろう」と嘆く事になる。

 やがて深刻な拒食症。それはうつ病などに発展していく。こうした摂食異常はいまや洋の東西を問わず社会問題ともなっている。昨夏、 スペインでは健康を害する「やせ」願望をあおる細身衣料を陳列しないようデパートで申し合わせたという。本欄はそれを昨年9月に紹介 し、二重アゴ、三段バラはメタボとしてとらえられ、それと同時に枯れ木のような極細体もまたメタボであるという専門家の指摘も紹介したが、 若い女性を振り向かせることはなかなか困難なようなのである。


 思えば1960年代をピークにマリリン・モンローやソフィア・ローレンのような豊満な肢体が喜ばれ、それは80年代にまで変らなかった。当時スーパー モデルといわれたナオミ・キャンベルらは肩から腰がふっくらとして逞しいばかりであった。

 ところが90年代に入ると美女体躯の基準は激変し、「小柄で華奢」が喜ばれるようになり、その延長線上に細身全盛の風潮が生まれてきた。2000年代 にはいると、この傾向に「食」の問題がからみ、「食」を無視した極端な「やせ」願望に、専門家の警告が繰り返しだされてきた。

 そして10年代、今年早々のことである。

 英国生まれのスーパーモデルといわれるリリー・コールさん22歳が来日した。今回は俳優として挑んだ映画のプロモーションのために来日したのだが、 その写真をみると、細い脚、腕、体躯、これを「ストレートサイズ」というそうだが、コールさんはそんなモデルを代表する世界的な人気者なのである。


 折も折、こうした風潮にファッション界の真っ只中から「待った!」の声が2か所からあがった(朝日新聞「世界発2010」欄1月6日)。これはニュース だ!

 ひとつは、アメリカの現職モデル、リジー・ミラーさん21歳である。昨年9月、女性誌『グラマー』に自分のぽっちゃりしたおなかの線を隠さず写した セミヌード写真をありのままにみせ、「ぽっちゃりで何が悪いのですか?」「どうですか。モデルの私でも実はこんなにおなかに肉が…。これが自然の姿だと 知って欲しい」と文字通りからだを張ってアピールしたのである。ミラーサンはこうも言う。これまでモデルは「いい仕事をもらおうと、毎日水とレタスだけと いった栄養失調生活をおくらねばならなかった」「モデルの贅肉は写真加工で消すのが半ば常識になっている」。

 その写真加工へのクレームがもう一つの声だ。昨年12月下旬、服飾大手ラルフ・ローレンのポスターで写真修正が問題となった。「ウエストが頭より細い 女性なんてありえない」「不自然だし、不気味だ」という声があがった。専門家(シカゴ摂食障害施設医療部長)も「がりがりにやせて、胸と腰だけが発達した 女性などいるわけがない」と指摘する。

 ついで『グラマー』11月号は「この体形が美しい」というタイトルの特集でミラーさんら7人のモデルの集合写真を掲載した。そして「さあ、みんなもっと 自信を持とう」と呼びかけた。その反響は大きく英米のテレビから出演依頼が続々きているという。

 ついに、極端なやせ願望の総本山ともいえるファッション界から、正面きって「待った!」の声がかかり、カーブがきられた。期待したい。

 
 
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