98年5月15日号の特集記事紹介

●在宅医療 率先活動のすすめ

「介護」は今や医療に課せられた最大課題の一つ

堀田力・さわやか福祉財団理事長に聞く

医師の積極的な医療に期待する
患者の家に出向いていくこと自体がボランティアだ


 公的介護保険の導入で介護が制度化されると、これまでの家族介護では表に出てこなかった 「心のふれあいの大切さ」が認識されるようになるといわれている。こうした背景の中で、 ふれあいボランティア活動の仕組みづくりにとり組んでいる「さわやか福祉財団」理事長で弁護士の 堀田力さんに、これからの医師に求められるボランティア像について聞いた。堀田さんは「在宅医療 では患者さんやそれを支える周囲の人たちにどれほど大きな力を与えるかわかりません」と少しずつ 増えている医師のボランティア活動に期待する。

医療の目的とは何か
 ――治療を受けようとする患者さんは、医師の前ではどうしても弱い立場にたたされてしまいます。 逆に医師は強者の立場に…。
 堀田 それは医療の目的は何かということが医師に理解されていないからだろうと思います。身体の ことは「医者である自分の方が知っているんだから」と、患者さんの意見に耳を傾けず、ついついその 場を仕切りがちになるのでしょうね。患者さんの精神的自立が医療の目的だという認識が案外、抜けて いるんですね。
 ――なるほど、教育にも問題があると。
 堀田 そうなんです。医師になるためには大変な苦労をして勉強するわけですから、確かにお金が儲かる、 尊敬もされるわけです。でも医師になる目的をはきちがえると、こんどは金儲けや名誉のためだけに勉強を することになる。あるいはそのように親から仕向けられたりする。だからちっとも楽しくないし、患者さん への思いやりも、やさしい気持ちもすっかり欠落してしまう。

精神的な自立の支援
 ――医師に求められるボランティア像とは…
 堀田 日本の場合は国民皆保険制度がありますから、震災など特殊な場合は別として、医療行為そのものを ボランティアでするということはむしろ好ましくないと思います。医師には患者さんの精神的な自立を支援するための ボランティアがあるはずです。

医師が出向いて行く
 ――それはなんですか。
 堀田 たとえば在宅で医療行為をする。医師が出向いて行く行為そのもの、これがもうボランティアなんですね。 つまり、今の診療報酬体系では在宅医療に対する報酬は、ゼロではないですが、ほとんどボランティアでしか出来 ないような仕組みになっています。ですから、在宅で行う医療行為そのものは保険で、しかし、自分の時間を割い て出向いて行く部分はボランティアになる。実は今、その部分をたくさんの人が求めているんですよ。
 ――お金にならないところにボランティアの意味があるということですね。
 堀田 すでに在宅医療をされているお医者さんというのは、家庭の中の介護状況にもかかわりますから、いろいろ とアドバイスをしたり、励ましたり、一緒に考えたりすることが出来るんですよね。

介護の環境づくりに
 ――それで、具体的にはどんな活動を。
 堀田 たとえば長野県の佐久総合病院などでは、山間部の農家にも出向いて行ってます。そういう所ではまだ、 お嫁さんが亭主の親の面倒を一人でみていたりするんです。もうフラフラになってですね。そういう現場でお医者さんが お嫁さんの話を聞いたり、介護のアドバイスをしたりと、医療行為以外の部分でも、より良い介護の環境づくりに貢献し ています。少しづつですがそれは全国的に広がっています。実はこういうことが本来の医療に結びつくんじゃないでしょうか。



ほった・つとむ 元特捜検事。ロッキード事件でコーチャン副社長の
 嘱託尋問、田中元首相らの論告、求刑を行った。現在、さわやか
 福祉財団理事長、弁護士。
  
ふれ合いの複合施設
     勇気づけられ感謝される日々


     東京・江戸川区の江東園

 経済効率を求めるあまり、大方の医師は在宅医療に腰を引く。堀田氏も指摘するようにそこには心のふれあいの大切さを 忘れた知識偏重の経済教育が重く影を落としているようだ。そうした大人たちに、ある自治体の試みを報告したい。

 江戸川区の江東園がそれだ。ここは、保育園、特養、養護それに高齢者在宅サービスセンターの四つが同じ敷地内にある複合施設。 一階にある保育園では毎朝九時半から園児とお年寄りが一緒になって体操をするのが日課になっている。体操が終わると園児たちは お年寄りに駆け寄りジャンケンをしたり、おしゃべりしたり、抱っこされたりして遊ぶ。その光景には懐かしささえ覚える。それほど いまの子供達はお年寄りとの接点がないのだ。「ここではホームでお年寄りが亡くなると、子供たちが安置所に焼香に行くんです。 まるでほんとの家族みたいですよ」(同園の特別養護老人ホーム施設長・松本三男さん)。
 また、同区のくすのきカルチャーセンターでは「少子化で空いている小学校の教室を改造してお年寄りの交流の場にしています」 (中央カルチャーセンター所長・森田愛子さん)という。そこではお年寄りが児童に勇気づけられ、児童は自分がしたことを素直に 喜んでくれる大人が世の中にいることに感動し、自分の存在価値を改めて見いだす――そういう心のふれあいが堀田氏の言う「自立 を援助する」ことにつながるのではないだろうか。


      朝のラジオ体操が終わると同時にお年寄りに駆け寄る園児たち。こんな暖かい風景が毎日みられる。


(C) IRYOU SHIMPO 1998



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