96年7月15日号の特集記事紹介
●小児入院患者の環境を問う
主張できない子どもの立場で
学齢期にあたる入院患者や長期入院の小児患者には、院内にも学校や家庭と同じような環境が必要であるという考え方から、欧米ではプレイセラピーという治療概念が普及し、法制化されている国もあるという。 バリアフリー(障壁除去)を
これは、感性豊かな貴重な時期に入院生活を余儀なくされた子供たちに、家庭に近い環境を提供し遊びや対話の中から、その閉ざされたこころを開いてゆくことで治療に役立てようとするもの。
世界屈指を誇る高い医療技術とは裏腹に、わが国の小児入院患者を取り巻く環境整備は、「殆ど手つかずの状態」と、指摘する東京都立医療短期大学の野村みどり助教授に、入院する子供の環境と問題点を聞いてみた。
プレイセラピー部門の一室に設けられた遊びコーナー
カロリンスカ病院(ストックホルム)学齢前の小児にとって入院は、大人の場合とは比較にならない環境変化である。病状や治療の説明などにしても親に対しては行われても、患者である小児自身には直接行われない。
「たとえば手術を受けなければならない子供には、プレイセラピストがぬいぐるみや人形を使って、その子に手術の意味や必要性について時間をかけて説明していきます。そして麻酔をかける時にも必ず側について立ち会いますし、麻酔から醒める時も同様にして極力不安を取り除くよう努めています」と、野村さんは日本との違いを指摘し、プレイセラピーの必要性を強調する。子供だからといって患者としての権利を軽視するのは間違いであり、患者としての権利は大人と同様に尊重されなければならないという考え方が欧米では定着しているようだ。野村みどりさんは、これまで建築計画学という専門の立場から肢体不自由児や病弱児の教育環境に関する調査研究に取り組んできた。その一環として1992年、イギリスとスウェーデンにおいて入院する小児の教育環境について調査したが、その結果これらの国では学齢の入院児の教育は教育委員会から派遣される教師によって実施されていることがわかったという。
さらに、イギリスでは学齢前プレイセラピーの充実が課題であり、スウェーデンでは0歳から15歳までの入院児にプレイセラピーが提供されているという現状を知ったという。
ところが現在、日本では学齢の入院児の教育は一部の病院でのみ行われているに過ぎず、プレイセラピーに到っては殆ど認知されていない状況にある。
大半は親が医師から病状や治療の説明をうけ、それを子供に伝えるようだが、年端のいかない子供には説明しても無理と最初から決めつけてしまっている親も多いという。ベッド間隔ゼロの小児病棟
もう一つ欧米に比べて決定的な違いは、患者一人当たりの病室の専有面積が極端に狭いことにあるという。小児病棟の場合、4床室は6m×4.5mと狭く母親が付き添うだけの空間が確保されてない。そのために、ベッドとベッドを部屋の中央でくっつけ、お互いの壁側にかろうじて付き添いのスペースをつくっているのが現状。このため、ベット間隔はカーテンがやっと引けるくらいの空きしかなく、処置などの時には付添人側からのアプローチしか出来なくなる。
さらに、プレイルームのない病院では子供はベッドの上におもちゃなどをひろげて遊ぶということになる。いずれにしても、小児患者のバリアフリー(障壁除去)は小児という特殊性を重視する必要がある。(C) IRYOU SHIMPO 1996